「今の米国株はITバブル時に近い」は本当だろうか FRBへの株式市場の信認は簡単には崩れない

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さらに、パウエル議長は「労働市場が強いままであっても、それが利下げの障害にはならない可能性」を示唆した。

株式市場のFRBへの信認はそう簡単には崩れない

2023年は経済成長が2%を超える高い伸びが続いたにもかかわらず、インフレ沈静化が順調に進んだことは、パズル(謎)であった。その理由として、労働供給拡大によって短期的に潜在成長率が高まった可能性をパウエル議長も指摘していたが、仮説の領域を出なかったとみられる。

その後、議会予算局(CBO)から2023年から移民の数が伸びていた可能性が示された。この分析などを踏まえて「移民による労働力増加が続いており、経済成長が上振れてもインフレが抑制される状況が長引く可能性が高まっている」とのFRBの認識が強まったとみられる。

労働供給の拡大が経済成長をサポートしつつ、需給ひっ迫が和らぐのであれば、高い経済成長とインフレ抑制が続きうる。これは極めて理想的な状況であり、永遠に続くのは無理である。だが、パウエル議長や他の幹部が当面こうした状況が続きうると認識していることは、FRBの利下げ開始判断を後押しする、無視できない要因だろう。

これらを踏まえると、過熱・失速もしない経済状況が続く中で、FRBへの株式市場の信認が、崩れるシナリオは想定しづらい。また「アメリカの株式市場はバブルに近づいている」との見方も散見される中で、FRBが株高に警戒的になって不思議ではないものの、現状は株高への警戒感をあからさまにするFRB高官はほとんどみられない。経済インフレ環境が、米国株市場を押し下げる要因になる可能性は当面低い。

一方、ファンダメンタルズ(経済・インフレ・金融政策)の要因以外に、米国株高を牽引しているのは、生成AIなど技術革新への期待であり、実際関連企業の株価が大きく上昇している。技術革新に伴い、企業の利益成長が将来的に非連続的に増えるとの期待から、昨年末からPERの上昇を伴う形で、米国株全体の企業価値評価が押し上げられている。

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