5年に1度の財政検証、次の年金改革の目玉とは? Q&Aで考える「公的年金保険の過去と未来」(下)
基礎年金への国庫負担増を、マクロ経済スライドの調整期間一致という聞こえのよい、心理学上のフレーミング効果をねらった角度から進めていこうとすると、基礎年金に依存する人の生活苦、貧困を救う必要、再分配の強化を始点に置かざるをえなくなる。
そこからスタートした論の帰結が、先ほどまで貧困の話をしていたはずなのに、この案に賛同して報道する(高所得の)記者たち自身をはじめ、多くの高年金受給者への税の投入が増えて彼らの基礎年金をも高めてしまうという矛盾が生まれる。
無理のある論から生まれるこのトリッキーさをつかれて、国庫の問題を絶えず考えている人たちから高年金受給者へのクローバック(一定所得層以上の基礎年金を減額する制度)が求められた時、どのように反論するのだろうか。
2013年の社会保障制度改革国民会議以来、長く論じられてきた適用拡大や被保険者期間の延長ではなく、厚生年金と国民年金の積立金を混ぜるという比較的新しく言われるようになった方法で、基礎年金を上げたい本当の理由を言うことを避けようとして、スキがある論になっているようにも見えるし、高在労廃止という、高所得者優遇と批判されることもある目標を掲げる同じ時代に再分配の強化を声高に言うのもおかしな話である。
かつての社会保障・税の一体改革時代に協力し合っていた厚労・財務の戦略的互恵関係を崩している一因になっているようにも思える。
経済界や労働界が財務省の財宝を山分け?
年金部会で、私が「政策形成過程に焦点を当てる政治経済学という俯瞰的な観点から見れば、(財務省から)財宝を奪ってきて、(経済界や労働界)みんなで山分けしましょうというのと似た話に」と話しているように、マクロ経済スライド調整期間の一致という改革案は、基礎年金の給付水準が上がる他の方策と比較して、これが一番政治家の支援者を守ることができる話ではある。
しかし、一体改革に沿う2013年の社会保障制度改革国民会議から続く論は、「被保険者期間の延長」「1号から2号へ」などに優先順位をおいて年金改革を進めるなかで、将来の基礎年金の水準が自ずと上がるというものであり、その際、国庫負担増加分の財源確保策について速やかに検討を進めるというものであった。この角度からのほうが論のベクトルの方向性が揃っていよう。
年金部会などでは、年金局がセットする議題に沿って、マクロ経済スライド調整期間が一致しないのはおかしい、ゆえに調整期間の一致を支持するという論もでてくる。しかしながら、なぜ、国民年金と厚生年金の調整期間が不一致であれば問題があるのか。年金部会では、そうした議論もしてもらえればと思う。
ただし、調整期間の一致の必要をいう際に基礎年金の水準を上げて貧困を解決する話に触れると、先に論じたような、貧困とは無縁の論者自身の国庫負担が増えるという矛盾に衝突する。
なお、基礎年金の水準論を昔から好む「基礎年金グループ」とは異なり、私は、これまで一度も基礎年金の水準論を行ったことがない。しかし、被保険者期間の延長、適用拡大、マクロ経済スライドのフル適用という、将来の基礎年金の給付水準が上がる政策は誰よりも強く言い続けてきた。
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