ホンダ・日産が提携、募る危機感と微妙な距離 次世代領域で連携を探るが具体策はこれから

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両社の議論が始まったのは1月中旬。「自動車産業全体について議論する中で共通の課題認識があった」(ホンダの三部敏宏社長)ことが提携への大きなきっかけになったという。「自工会(日本自動車工業会)の会合で話す機会が増えて距離が近づいたようだ」と日産元役員は語る。

EVは希少金属を多く使う電池のコストが重く、ガソリン車に比べて収益を上げにくい。そのうえ、中国勢が値下げによる価格競争を仕掛けてきており、「消耗戦の様相になっている」(ホンダ系部品メーカー首脳)。これまで以上のコスト削減が必須となっている。

ただ、既存の生産体制をEVに特化したものに刷新するだけでも「グローバルで兆円単位の投資が要る」(ホンダ幹部)。両社が手を組むことでスケールメリットを利かせ、幅広い領域での負担軽減を狙う。

具体的な協業領域として有力視されるのがEVの基幹部品だ。中でも、EVの動力部品である「eアクスル」は、各社が開発にしのぎを削る一方で採算の確保が課題となっている。

eアクスルを手がける部品メーカーとして、ホンダが日立Astemo、日産がジヤトコを抱えており、2社の連携や再編は今後の焦点となりそうだ。

電池についても両社は電池メーカーの買収や提携を通じた技術の内製化を模索しており、開発や調達で協業が期待できる。ある日産幹部は、「全固体電池の開発や量産でホンダと組めないか、経済産業省からも打診が来ていた」と明かす。

両社はソフトウェアも協業の主題に挙げた。業界では車両の電子化が進み、製品の基盤となるOS(基本ソフト)が将来的には商品力のカギを握るとされる。

トヨタ自動車は独自開発する車載OS「アリーン」を、マツダなど自社が出資する他メーカーにも拡販する方向を示している。

ホンダも独自開発を進めているが、多額の開発コストを要するうえ、ソフトウェア技術者も足りていない。日産と手を組めば、OSの陣営は国内メーカーで2つに集約されることになる。

会見の写真撮影では「握手」せず

社風や文化の違いを不安視する声に対して両社長は「違うのは当たり前。そこを乗り越えて、シナジーを最大化させることができる」と強調する。

ある日産幹部は、「三部社長とは技術的な議論でかみ合う部分が多くある」と語る。ここ数年だけでも、技術幹部同士の非公式の交流は行われていたようだ。

もっとも、覚書締結はスタートラインに立ったというだけにすぎない。日産幹部は「個別の技術に入っていけば必ず意見の相違が出てくる」と指摘。ホンダ幹部は「メリットがあれば一緒にやっていくというだけだ」と淡々と語る。

3月15日の記者会見では、終了間際の写真撮影で報道陣が三部・内田両社長に握手をするよう求めたが、両人は応じなかった。具体的な協業へ移行し、成果を上げるには、スピード感も大事になってくる。笑顔で握手する日はいつになるのか。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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