TSMC創業者とソニー会長が熊本で明かした秘話 ソニー盛田氏の言葉とTSMC日本進出の第一声

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この1〜2年で急速な盛り上がりを見せるAI(人工知能)向け半導体への期待も口にした。

「(TSMCの)AI担当者が最近、必要な生産能力について、数千〜数万枚というウェハーの枚数ではなく『新たな工場がさらにいくつ必要なるか』という話をしていました。完全にその話を信じているわけではありませんが、そのどこか中間あたりの生産能力が必要になるのかもしれない」

一方のソニーからは、ソニーグループの吉田会長CEOと、グループ内で半導体を手がけるソニーセミコンダクタソリューションズの清水照士社長が出席。吉田社長が語ったのは、今回のTSMCとの合弁がどのようにして始まったのかだった。

2021年1月の台北での会談が始まり

「2021年1月、私と半導体事業の責任者である清水は台北のホテルで(TSMCのCEO)C.C.ウェイ氏とお会いしました。ロー、ケビン、ジョナサンといった幹部の方々もご一緒でした。われわれは、ロジック半導体の調達について議論するために出向いたのです」

【3月4日13時28分追記】初出時の「2020年4月」を「2021年1月」と修正します

ソニーは、iPhoneのカメラなどに使われるイメージセンサーを自社で生産している。ただ、製品として仕上げるためにはロジック半導体と重ね合わせる必要があり、そのロジック部分の調達はTSMCに頼っている。

ソニーグループ吉田会長CEO
TSMC熊本工場の開所式に訪れたソニーグループの吉田会長CEO(記者撮影)

2021年1月といえば、コロナ禍によるサプライチェーン混乱の真っただ中。ソニーにとって安定調達は喫緊の課題だった。

「ですが、その会議冒頭、C.C.ウェイCEOに『日本での生産を計画している。それに協力してほしい』と言われました」

ソニーは近隣に自社工場を保有しており、TSMC誘致のための「ホスト」として尽力することになる。ある経産省幹部は「自治体との関係づくりに加え、人や土地の手配を世話して受け入れ環境の整備を進めたソニーの貢献は大きかった」と語る。

開所式に先立つ2月6日には、かねてから既定路線として確実視されていた第2工場の建設も発表された。86億ドルを投じた第1工場と合わせると、投資額は200億ドル超(約3兆円)となる。日本政府はこの第2工場に対しても、第1工場を超える7320億円を助成すると発表している。

第2工場では6~7ナノメートル世代の半導体が生産される。第1工場で作られるものはソニーのイメージセンサー向けが中心だったが、第2工場では自動運転やADAS(先進運転支援システム)向けの自動車向けが中心となりそうだ。トヨタの出資は、この第2工場の建設と同時に発表されたものだ。

第2工場の建設は2024年中に始まり、稼働は2027年末を見込む。その頃には、モリス・チャン氏の語った日本のものづくりの良さを生かし、「日本における半導体製造の“ルネサンス”」が具体化しているかもしれない。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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