30年以上、世界の半導体の現場に身を置いて今も現役で活動する半導体エンジニアが日本や世界の半導体政策や業界動向を解説する。
TSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場、JASM(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング)が2月24日に開所式を行った。同社はデンソーおよびソニーセミコンダクタソリューションズを少数出資者に迎え入れ設立された。また、2月6日には新たにトヨタ自動車も少数出資者に迎えて2027年末までの稼働を目指した第2工場を建設することが発表された。
TSMCの進出理由について筆者は「『TSMC熊本進出』のあまり語られない本当の理由」として解説した。一方で、これらのTSMC日本進出をいわゆる台湾有事と関連して解説される方も多くいる。筆者はエンジニアであり国際政治は専門ではないが、ここでは技術的な視点で台湾有事がTSMCにどのように影響するかを解説していく。
TSMCが海外進出を積極化させている背景
TSMCはもともと海外製造拠点として、アメリカ・ワシントン州のFab(ファブ)11や中国・上海のFab10、南京のFab16などを設けていた。ただ、製造の大部分は台湾国内が占めていた。
その中で2020年5月にアメリカのアリゾナ州に政府から支援を受けることを前提に5nmノード世代の半導体工場建設を発表したことは業界でも驚きの声が多かった。トランプ政権下での2019年に通信機器大手のファーウェイなどの中国企業への輸出規制が始まったことを考えれば、米中対立が激化する中でアメリカ国内に最先端ロジック製造拠点を保有したいとのアメリカ政府の意向であることに異論はないだろう。
一方、日本は車載半導体不足から始まったサプライチェーンの再構築と日本国内の半導体産業をてこ入れしたい経産省の思惑により誘致につながったといえる。この誘致成功をみた欧州も日本パッケージをそのまま取り込むことでドイツ・ドレスデンのTSMC誘致につながったのである。
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