「特に校長先生には随時予算執行の進捗を報告し、『講師を呼ぶなどの計画はありますか』と確認をとっています。しかし明確な回答を得られたことはありません。学校を経営する校長先生も、たった1年間の見通しすら持てていないのか……と思ってしまいます」
「定員1名」でブラックボックス化
校長の意識の低さはガバナンス不全につながる。実際、予算執行が滞れば、学校内だけでなく取引業者にも影響が出ることもある。納品したのに代金が支払われないとなれば、学校が業者側に訴えられてもおかしくない。
公立小学校では1〜3年程度に1回監査が行われる。こうした事態が明るみになれば、校長や副校長にはかなりのマイナスになるはずだが、形式上の注意にとどまっているのが現状だ。
「むしろ改善のため提出書類が増えたり、期日が前倒しされたりと、事務職員の負担が増えていきます。正規職員ならまだしも、病休中などで非正規の会計年度任用職員が対応する場合は、給料と負担があまりに割に合いません」
学校や校長によって仕事の進め方が変わるためノウハウは属人化し、「定員1名」のため新人育成もできない。この状況を打開する策として水沢さんが期待するのが、2017年に国が制度化した「共同学校事務室」だ。複数の学校の事務を共同で処理することで、事務の適正化・効率化を図る。ブラックボックス化を防ぎ、人件費の削減も可能だ。
「たとえ仕事をこなせても、やはり1人マイノリティな存在であることの精神的負担は大きい。管理職や教員に不当な扱いをされていても、誰も助けに入れないのです。共同学校事務室では、一人ひとりが『経理』『設備』など担当分野を持つので効率的ですし、ダブルチェックもできます」
予算を適正に配分し、計画的に必要な物を購入して、大切に使う。ごく当たり前のことが、子どもたちの成長を支えるはずの小学校で徹底されていない現実は重たい。水沢さんは「先生方には、事務が1人で働いていることを知ってほしい。私たちだけでは抱えきれない問題もあるので、『お金がないならこうしようか』と一緒に考えられる関係が理想です」と語る。
「子どもたちのため」と奮闘しているのは教員だけではない。「予算的に無理」と言ってしまえば簡単なところを、どうにか調整に動く事務職員の「歩み寄り」が報われるような対応が、教員にも求められている。
(文:高橋秀和、写真:kapinon / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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