「成長で財政は黒字化」と高をくくる人に伝えたい 借金をツケ回すコスト=利払い費が増えてゆく

✎ 1〜 ✎ 210 ✎ 211 ✎ 212 ✎ 最新
拡大
縮小

確かに、国の一般会計の基礎的財政収支は、中長期試算の成長実現ケースによると、毎年度徐々に改善してゆき、2030年度には0.3兆円の黒字になる(ちなみに、目下の財政健全化目標は国だけでなく地方自治体の分も含んだ基礎的財政収支で、これを2025年度に黒字化することを目標としている)。

基礎的財政収支が改善しているのに、公債依存度が悪化するというのはどういうことか。

その差異の原因は、利払い費の増大である。基礎的財政収支の支出側は、政策的経費であって、利払い費は含まれない。だから、利払い費が増えても、基礎的財政収支が直ちに悪化するというわけではない。

しかし、公債依存度の分母は、利払い費を含む歳出総額である。

利払い費が増えることで歳出総額が増えると、利払い費が増えるほどには税収が増えなければ、国債発行を増やさないと収支の帳尻が合わず、結果として公債依存度が上昇することになる。デフレから脱却して物価上昇率が安定して2%近傍になれば、当然として国債金利も上昇する。それに伴い、利払い費も増加する。

ツケ回しのコスト=利払い費が増加

この利払い費は、これまで今を生きる世代が負うべき税負担を回避して発行してきた国債に伴う費用である。いわば後代にツケを回したことに伴うコストである。それすら払わないということでは、無責任極まりない。

そのコストをも含んだうえで、できるだけ後代にツケ回さないように、公債依存度を引き下げてゆく必要がある。無駄な財政支出を削減することを通じて国債発行を減らすことで、公債依存度は下げられる。

中長期試算では、今の財政構造のままでも25%を割らない程度には公債依存度が下がるとの見通しであるから、無駄な財政支出を削減するという規律付けのためには、もう一段の引き下げ、例えば20%程度まで公債依存度を下げるような政策努力が必要だ。

そうすることで、後代へのツケ回しを和らげることができる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT