開戦2年、写真家が見た「ウクライナ前線の街」の今 ロシアによるウクライナへの侵攻から2年

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プーチン大統領が目論むドネツク州の完全制圧に向けて、要衝と位置づけられたアウディーイウカ。人口3万5000人、面積29平方キロメートルの工業都市は、2014年に勃発したドンバス紛争以降、最前線になってきた。親ロシア派が支配する州都、ドネツク市から北へわずか15キロメートルのところにあるからだ。

昨年、ロシア軍に対する反転攻勢が失敗したウクライナ軍は、アウディーイウカを死守するため兵力を集めた。先鋭部隊の第47独立機械化旅団は、ザポリッジャ州に展開していた最新型の戦車、レオパルト2とともにアウディーイウカへ移動した。

前線で負傷した兵士の応急措置をする野戦病院のスタッフも移動を求められた。筆者が所属する人道支援団体「マリウポリ聖職者大隊」のユーリ・イワノビッチ(48)もその一人だ。

アウディーイウカの野戦病院。中央がユーリ。昨年12月24日(写真提供:ユーリ・イワノビッチ)

昨年6月の反転攻勢開始以来、ユーリはザポリッジャ州のロボティネ付近にある野戦病院で医療補助のボランティアをしていた。アウディーイウカの野戦病院に着任したのは昨年の12月17日。仮設の治療室には5台の手術台があり、心拍数を表示する機器や点滴が配置されていた。

ユーリから届く凄惨な現場の動画

連日、医師とボランティア十数人で負傷兵の治療にあたった。ピークを迎えたのは12月24日。ユーリから届く動画には、ウクライナ兵のうめき声が記録されている。幾人もの兵士の腕や足首から血が滴る。ロシア軍が打ち込んできたロケットの破片が当たり、裂けた傷口のようだ。

その頃、ユーリは筆者にこんなメールを送ってきた。「戦線が非常に近いので、負傷して間もない兵士が運ばれてくる。戦況はとても厳しい。誰もが疲れている」。

ボランティアのユーリ・イワノビッチ(写真:筆者撮影)

次にユーリがアウディーイウカで活動したのは1月22日から1月29日。運ばれてくる負傷兵は少ない日でも20人、多い日だと30人に増えたという。ケガの状況も変化していた。マシンガンの砲弾が直撃し、スネからふくらはぎに向けて貫通した兵士がいる。腕の前側から後ろ側に向けて射抜かれた兵士もいる。アウディーイウカの市街で、ウクライナの部隊がロシア軍の歩兵と正面から対峙していたことが想像できる。

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