重度障害者を支える元パナ技術者開発のスイッチ 「アメリカ製品の廃番」の危機を受けて製品化
松尾社長は、握り込める板状スイッチと、わずかな力で押せる小型スイッチも併せて製作することにした。
これらも一部の症状を有する障害者には極めて有効だが、大量生産しても儲けは出ない。切実な需要がある一方、経済的な観点から商品化が見送られてきたと言える。
「これまではヘルパーや患者の家族が、100円ショップのプラスチック製ケースなどで手作りしていました。操作感にばらつきが生じ、供給も安定しません。しっかりしたスイッチがないことが、結果的に支援機器の普及を妨げてきたのです」(松尾社長)
スイッチは内部の機構部分と外側のカバーで構成される。松尾社長は東京・秋葉原の部品ショップを駆け回ったり、さまざまなメーカーから取り寄せたりして、大量の機構部分を入手。それらを一つずつ分析し、最も適した3種を選んだ。
カバーは3Dプリンターで試作し、その数は500以上に及んだ。設計しては機構部分をはめ込み、押してみる。単純な作業を延々と繰り返した。
3種のスイッチは異例のヒット商品に
重度障害者の中には、数ミリしか指を動かせない人もいる。それでも安定して使用できるよう、0.1ミリ単位の微調整を進めた。約10カ月かかり、納得のいく品が完成。これを基に加工業者へ金型を発注し、生産体制を整えた。
3種のスイッチを各1万1000円(税込み)で2022年11月に発売すると、優れた操作性が評判となり、1年間で計約400個を出荷。「年間で数十個出れば良いほう」(松尾社長)という世界で、異例のヒット商品となった。
冒頭で紹介した太田メリサさんが使っている「ハーフスイッチ」は、この3種のうちの1つ。約10グラムの圧力で押せる軽さが特徴だ。
メリサさんは以前、iPadを指でスワイプして扱えたが、症状の進行で難しくなった。スイッチコントロール機能の活用を試みたものの、小さな手にフィットする既製品はなかなか見つからなかった。
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