「アリババからシフト」孫正義氏とマー氏の関係 巨大企業の経営者が共に歩んできた道のり

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アリババ株を吐き出したことで、同社はSBGの連結対象から外れ、資本関係もなくなった。

後藤氏は資本関係の有無にかかわらず、「今後も同じ志を持つアリババとの協力関係は続きます」と強調するが、2020年に孫氏とマー氏は「卒業」と表現してお互いの企業の取締役を外れており、ビジネスパートナーとしての関係性は薄れている。孫氏は当時、アリババ株を「できるだけたくさん、長く持ち続けたい」と話したが、それも叶わなかった。

孫氏とマー氏は、ビジネスの現場でも戦友だった。アメリカのオークションサイトのeBayが中国に進出した際、孫氏はBtoB向けのECを行っていたアリババに、eBayに対抗してBtoC事業に進出するよう助言し、資金面で支援した。アリババがそのときに始めたのが、中国最大のECマーケットプレイス「タオバオ」だ。

孫氏とマー氏の人生観は異なる

東大での対談で、マー氏は2人の関係について「犬と狼は似ているが、違う」と説明した。孫氏がそれを受け、「犬と狼は似ているが違うという話が出たが、犬は犬同士、においでわかる。私はジャックを同じ種の動物だと嗅ぎ取りました」と続けた。

ただ、2人の人生観は大きく違うようにも見えた。ビジネスが人生そのものである孫氏に対し、教師出身のマー氏は「早くビジネスの一線から退き、教育や公益に力を注ぎたい」と公言していた。

彼は以前、中国の若者に「20代は良い上司を見つけましょう。30代は自分が何をやりたいかよく考えましょう。40代は得意なことをしましょう。50代では若い人を助けましょう。60代になったら家族との時間を大事にし、仕事のことはあまり考えないようにしましょう」とアドバイスしている。

マー氏は自らの言葉を実践し、2013年に48歳でCEOを、55歳の誕生日に会長を退いた。ダニエル・チャン(張勇)氏がCEO、会長を引き継いで後継者育成も盤石に思えたが、同氏は昨年、アリババ会長も会社分割後のクラウド事業会長も退任し、創業メンバーで「ジャック・マーの黒子」と言われるツァイ氏に後を託した。

マー氏は公の場から去って久しいが、社内チャットではアリババの向かう先や、新興EC企業「拼多多(Pinduoduo)」が時価総額でアリババを上回ったことについて発言している。

マー氏は今年、60歳を迎える。「仕事のことは考えないように」という若者への助言と反対の方向に向かっているように見える理由は、アリババの混迷を見かねたのか、それとも彼が本質的に「孫氏と同じ種の動物」だからだろうか。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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