改変しても脚本家が批判されないハリウッド事情 事前にどんな形で映像化されるか確認するのは困難
スティーブン・キングが映画史上において傑作とされるスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』を嫌っていることは有名な話だ。その理由は原作と違うということだけではない。それについてはキューブリックが十分語っている。
事実、スティーブン・キングは昨年の『ブギーマン』をはじめ、原作と変えられた自作の映画化版を褒めることもある。変更があったかどうかが彼にとって好きか嫌いかの基準になっていないのは明らかだ。
今年5月、日本公開の注目作品『関心領域』では?
また、今年のアカデミー賞に複数部門で候補入りしているホロコーストをテーマにした映画『関心領域』(原題:The Zone of Interest)は、驚くほど原作と違う。原作小説が出版される前に抜粋を読んだジョナサン・グレイザー監督は、その後たっぷりリサーチを重ね、実在したナチ将校を主人公に置き換え、ストーリーも大幅に変えて映画にしたのだ。
しかし、何年にも及ぶ製作過程で、グレイザーは「原作を何度となく読み直した」とも、筆者との取材で語っている。グレイザーにとって、この本は断然「原作」に基づくものなのである。
原作者のマーティン・エイミスはカンヌ国際映画祭で映画がプレミアされたのと同じタイミングの昨年5月に亡くなっており、彼が完成作をどう思ったのかはわからない。映画化権を取得してから、プロデューサーのジェームズ・ウィルソンとグレイザーがエイミスとどんなやりとりをしたのか、映画化権取得においてどんな契約が交わされていたのかも不明だ。
しかし、映画は大傑作で、多くのことを観客に伝える。ここまで観客にインパクトを与える映画になったのだから、エイミスもきっと評価するのではないか。もちろん、それはこちらの勝手な想像だ。もしかしたらエイミスは気に入らなかったかもしれない。そうだったとしても、責める相手はプロデューサーのウィルソンと監督としてのグレイザーで、脚本家としてのグレイザーではないはずだ。
理想は、観客、フィルムメーカー、ファン、原作者、みんなが満足する形で映像化されること。どの作品においても、それはみんなが願っていることに違いない。実際には難しいのだが、できるだけの努力は必要。実現できるために、かかわる人たちが良心をもちつつコミュニケーションを取ってくれるよう、願うばかりである。
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