改変しても脚本家が批判されないハリウッド事情 事前にどんな形で映像化されるか確認するのは困難

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たとえば、M・ナイト・シャマラン監督の『ノック 終末の訪問者』(2023)の原作小説を書いたポール・トレンブレイ。プレミアで完成作を見た時には、「自分が思い描いた通りで涙が出た」こともあった一方、見ていられなくて「劇場を飛び出したくなったこともあった」と、彼は「Los Angeles Times」に語っている。

映画版『ノック 終末の訪問者』は、結末が原作とまったく違う。ただし、その点は原作者は最初から承知していた。映画の資金を集める段階で、「子供が死ぬという結末はそのままにできない」と言われていたのである。

それほど知名度のない彼がよく考えもせずに映画化権を売ったのは、本が出版される半年前。契約上、彼に意見を言う権利はなかったものの、プロダクション会社のエグゼクティブは脚本を見せてくれ、意見も聞いてくれた。脚本はシャマランが監督に決まる前の段階に書かれていたものからすでに原作と相当に違っていたが、トレンブレイは脚本家をまったく責めない。

シャマランがやってきてさらに変更された完成版について、彼は「ナイトは、『選択』というテーマを重視したようだ。彼はこの映画版で、僕とは違う文化、宗教経験からそこに迫っている。それは理解できても、僕はまだ葛藤を覚える」と、複雑な心境を語っている。

改変されて原作者が大満足のケースも

しかし、原作に忠実かどうかだけが原作者の満足につながるというわけでもない。『ブレードランナー』(1982)は原作とかなり違うにもかかわらず、フィリップ・K・ディックは映画を大絶賛している。『クレイジー・リッチ!』(2018)の原作『クレイジー・リッチ・アジアンズ』の作者であるケヴィン・クワンも、結末をはじめいくつか改変がなされているが、映画化版を気に入ったようだ。

イギリスとアメリカで大ベストセラーとなり、続編も多数出版された『お買いもの中毒な私!』(2009)も、舞台をイギリスからアメリカに変えるなどいくつも変更があったが、筆者がインタビューした時、原作者ソフィー・キンセラは、「映画化される時には改変もあるものだから」と理解を示していた。

映画化したのはディズニーとプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーで、興行成績、批評ともにふるわず、原作ファンから批判されたのも彼らだった。

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