トンネルを抜けると眼前に霧島連山が現われ、天気がよければかなたに桜島が見えることもある。観光列車「いさぶろう」(上り列車は「しんぺい」)に乗れば、この付近で徐行、停止してくれるので窓を開けて写真を撮ることも容易だ。女性アテンダントによる解説もあり、初心者でも安心して旅を楽しめるのが心強い。
九州を取り上げたので、北海道の車窓にも触れておこう。気楽に優美な山を複数回眺められる路線として函館本線がおススメだ。
函館から特急列車に乗れば、すぐに大沼公園を走り、大沼小沼の背後に特徴ある駒ケ岳が見えてくる。札幌行き特急「スーパー北斗」は、長万部から海沿いの室蘭本線に入ってしまうので、長万部から普通列車に乗り換えるか、8月後半の期間限定臨時特急「ワッカ」に乗ってみたい。
長万部から小樽の区間は「山線」と呼ばれるほどの山岳路線で、昔から難所として知られているが、倶知安付近で車窓に現れる羊蹄山(ようていざん)の麗姿には見とれてしまう。リゾート地ニセコ、NHK朝ドラで一躍有名になったウイスキーの故郷、余市を訪ねてみるのもおススメだ。
意外性のある路線もピックアップ
ここまで、すっかり旅行気分に浸れる路線を数々取り上げてきたが、多くのビジネスマンにとって出張によく利用する路線、「日常的」ともいえる東海道新幹線をあえて第9位に推しておきたい。
「何度も利用しているから、車窓など見向きもしない人が多いのでは」と思うけれど、後発の新幹線よりトンネルは多くないし、実は車窓の楽しみに満ちた路線なのだ。言わずと知れた富士山は、海外からの旅行者にも「定番」だし、名古屋を発車し、岐阜羽島を過ぎる頃から左手に見える鈴鹿山地、続いて関ヶ原を越えて右手に現われる伊吹山は、一時、心和む美しい山の姿だ。
寸暇を惜しんでパソコン画面や書類に目を通したい気持ちもわかるけれど、ちょっと手を休めて新幹線からの車窓を楽しむ余裕を持ちたいものである。
最後に、意外な山の車窓ということで、北海道の宗谷本線を挙げておきたい。最果ての駅、稚内を目指して北上する列車がラストスパートを始める少し前、サロベツ原野のかなたに富士山型の山が見えてくる。初めて訪れる際、よくわからないままに眺めていると、いつしか列車は海を見下ろす区間にさしかかり、先ほどの山は海の向こうに浮かぶ利尻島にそびえる利尻山だったことがわかるのだ。
人家もない原野だったからこそ、海の向こうの山が陸続きの山のように錯覚してしまう不思議な風景。実に印象的である。
山国でもある日本は、列車に乗れば各地で美しい山の車窓を楽しめる。序列をつけがたい「記憶に残る風景」は、ほかにも山ほどあるけれど、とりあえず私が独断で選んだベスト10は以上である。
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