言語につきまとうジェンダー・ステレオタイプに抗う試みとして、アルゼンチンをはじめとする南米のいくつかの国では、特定の性別への偏見を含むような言語表現を使うのをやめ、ジェンダー的に中立の表現と置き換えるようになった。
とはいえ、社会全体にとっては、無生物の男性名詞と女性名詞を言語から一掃するよりも、新しい単語や表現と置き換えるほうが簡単だ。
実際、文法的性を完全になくす試みはあまりうまくいっていないが、その一方で、性別のわかる代名詞に加えて(あるいはその代わりに)ジェンダー的に中立な代名詞を使うという試みは、世界各国で成功を収めてきている。
たとえばスウェーデンでは、昔から使われている男性代名詞の「han」と、女性代名詞の「hon」に加え、ジェンダー的に中立な「hen」という代名詞も新しく使われるようになった。またフランスでは、男性代名詞の「il」と女性代名詞の「elle」を結合し、ジェンダー的に中立な「iel」という新しい代名詞が誕生した。
他の言語でも同じような変化が起きている。
たとえば英語では、本来は複数形である「they」という代名詞が、ジェンダー的に中立な三人称単数の代名詞として、男性の「he」や女性の「she」の代わりに使われる場面が増えてきた。二人称の「you」は単数でも複数でも同じ「you」だが、それと同じような使い方だ。
またスペイン語話者は、小さな男の子をさす「niño」と、小さな女の子をさす「niña」の変わりに、ジェンダー的に中立な「niñe」という言葉を使っている。
このようにジェンダー的に中立な代名詞を使うのは、ジェンダーに根ざした偏見と差別を最小化する効果があると考えられているからだ。
これが単なる一過性の流行なのか、それとも私たちのジェンダーに対するイメージを永久に変える動きになるのかを判断するには、今後の推移を見ていく必要があるだろう。
柔らかな名前は、おとなしい性格に見える?
個人の名前もまた、言語に表れるジェンダー・ステレオタイプの一例だ。複数の実験によると、柔らかな発音の名前(アンやオーウェンなど)の人は、周りからおとなしい性格と思われることが多く、硬い発音の名前(カークやケイトなど)の人は外向的な性格と思われることが多い。
仕事のオファーがあるかどうかや、給料の額も、その人の名前と、その名前から想像される人種や民族、性別、年齢といった情報から影響を受ける。