ガソリン車縮小で日本メーカーは再興できるか? 中国市場で起きている「電動化シフト」の中で

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ガソリン車市場のパイが縮小する中、ディーラーの値引き競争を受け、ホンダの兄弟車同士でカニバリゼーションを起こしている現状がある。

e:NS1の兄弟車となる広汽ホンダ、e:NP1(写真:本田技研工業)
e:NS1の兄弟車となる広汽ホンダ、e:NP1(写真:本田技研工業)

2023年には、東風日産がEGR バルブの不具合で、キャシュカイとエクストレイル、計118.8万台をリコールすると発表した。

また、走行記録装置の不具合により、広汽ホンダがアコードを22.4万台、東風ホンダはブレーキペダルセンサーのトラブルにより、CR-VのHEV 20万台以上をリコールしている。こうした大規模なリコールも、日産とホンダのブランド力に影響を与えたようだ。

中国製PHEVの価格破壊に打ち勝つには

日産とホンダが苦戦している中、トヨタは比較的堅調である。2023年に8万台以上を販売したモデル数を見ると、日産が3モデル、ホンダが5モデルであるのに対し、トヨタは10モデルであった。

また高級車では、ホンダのアキュラは撤退し、日産のインフィニティは年間販売台数が6000台未満。それに対し、全数を輸入するレクサスの販売台数は、前年比2.8%増の18万台に達し、ドイツブランドに次ぐ4番目の高級車ブランドとなっている。これはトヨタのブランド力を支える1つの重要な要素だ。

トヨタはSUVラインナップを増やし、ガソリン車の競合から確実にシェアを獲得している。特にファーストカー向けの「フロントランダー」は、優遇を加えると10万元を切る価格となり、2023年は前年比約2倍となる19.8万台を販売。日系SUVの第2位に躍進した。

フロントランダーは日本のカローラクロスにあたるモデル(写真:トヨタ自動車)
フロントランダーは日本のカローラクロスにあたるモデル(写真:トヨタ自動車)

トヨタはブランド力と製品力で勝負する一方、価格戦略の見直しも行っている。一方で、価格が20万元を超えるモデルの販売台数を見ると、広汽トヨタと一汽トヨタがそれぞれ44.5%、49.8%で、他社よりも高い水準にある。今後、トヨタが値引き攻勢で販売台数を維持していくと、それが日系同士の新車販売に影響を与えるだろう。

中国では電動化シフトが加速する中、中国勢PHEVの価格破壊が、日本車全体の競争力を一気に脅かした。日本車の販売不振が長引くと、ディーラーの経営悪化や不採算店の廃業が起こって間接的にメーカーの減産を後押しし、系列部品サプライヤーも事業縮小を余儀なくされる。

この先は、ガソリン車の需要が減少の一途を辿り、各社とも残存者利益をとるための値下げ競争が一層熾烈になると予測される。日系自動車メーカーが中国市場で戦っていくためには、機能・乗車体験・コスパを含むガソリン車とHEVの競争力を構築し、既存のファンをキープすることが最重要であろう。

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湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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