南シナ海で実力行使、高まる米中衝突の危機 米中双方が相手の主張を許さない

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米海軍艦艇と航空機の南シナ海におけるパトロールは、「南シナ海はグローバルコモンズ(公海)である。したがって米軍は自由に活動を行う」という米国の主張を、行動で示すものだ。CNNに報道させたのは、中国および国際社会に向け、「中国が巨額の資金を投じて急速に埋め立てを進めても無意味である」と、知らしめるためだ。

現在、米中両国を含めて誰も、米軍の活動を南シナ海から排除することも、中国の人工島建造を止めることもできない。チキンレースである。

人口島を「島」と認めない

米軍は実力行使のレベルを一段上げようとしている。米国防総省ウォレン報道部長が、中国の人工島から12カイリ(約22キロメートル)内に米軍を進入させるのが「次の目標」だと明言したのだ。中国が「領海」と主張する海域である。

米国は中国の人工島を島と認めない。したがって、領海も存在しない。人工島のすぐそばであっても公海であり、艦艇や軍用機が自由に行動しても問題はないのだ。

しかし、これは中国にとって、極めて深刻な事態である。中国の南シナ海における主権の主張は、南沙諸島の領有を根源にしている。領有を主張する人工島が島でなければ、「南沙諸島とその近海に主権を有している」とする主張は、その根拠を失う。

したがって中国は、「中国の主権が及ぶ」とする海域および空域に進入する米軍艦艇や航空機に対して、さらに強硬に排除を試みるだろう。

米中双方とも、相手の主張を許せば、自らの安全保障の根幹が揺らぐ。そして、その主張は、実際の軍事力によって誇示されている。双方が引かなければ、いずれ衝突が起こる。単純な話だ。

が、そのダメージは計り知れず、日本や周辺諸国にとってもひとごとではない。日本は、米国の同盟国として、何よりも独立国として、衝突回避と危機管理の有効策を考えなければならない。

「週刊東洋経済」2015年6月13日号<8日発売>「核心リポート05」を転載)

小原 凡司 笹川平和財団上席フェロー

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おはら ぼんじ / Bonji Ohara

各種メディアで情報発信している安全保障、中国の軍事問題の専門家。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修了。1985年海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003~06年駐中国防衛駐在官。2006年防衛省海上幕僚監部情報班長、2009年第21航空隊司令、2011年IHS Jane’sアナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャー、2013年東京財団研究員を経て、2017年から笹川平和財団上席研究員。著書に、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『世界を威嚇する軍事大国・中国の正体』(徳間書店)、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)などがある。

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