南シナ海で実力行使、高まる米中衝突の危機 米中双方が相手の主張を許さない

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サンゴ礁の島々では中国が埋め立てを進めている。軍事目的の施設も建設中だ。(ロイター/アフロ)

「YouGo!(出ていけ!)」イラついた調子で叫んだのは、中国海軍を名乗る無線交信だ。

2015年5月20日、中国海軍は、南シナ海上空を飛行する米海軍の「P8Aポセイドン」哨戒機に対し、8回の警告を発した。米テレビ局CNNの取材班が同機に搭乗して翌日に報じた。

中国海軍が発した警告には興味深い点がある。

「軍事警戒圏」という言葉の意味

第一は軍隊と警察の混同である。「こちら中国海軍、中国海軍、中国コーストガード」と、同一人物が一回の送話の中で、海軍とコーストガードの両方を名乗っている。

コーストガードは法執行機関であり、軍隊とは区別される。行使するのは武力ではなく、警察としての権限だ。国際法上の扱いも異なる。だが、中国は南シナ海において、海軍とコーストガードを混同して運用しているようにも見受けられる。

第二は中国海軍が米軍機に、「軍事警戒圏に近づいている」と警告したことだ。

この「軍事警戒圏」は、中国の造語なので、何を意味しているのか正確にはわからない。しかし、言葉の意味から考えれば、「この領域に入れば軍事的対抗手段を取る」という内容に受け取れる。国際空域に、中国独自の概念に基づく実力行使可能な範囲を設定した、ということだ。

「領空」の外側でも米軍機に対し、「警告」という一種の実力行使をするために作られたのが、「軍事警戒圏」という概念であり言葉である。

同様に中国は、「領海」という表現を用いず、「南沙諸島と近海には争いようのない主権を有している」と繰り返す。「領海を越えて南シナ海全域に主権が及ぶ」と、現段階で明言すれば、国際社会からは激しく批判される。「近海」という言葉を使うことで、主権が及ぶ範囲をあいまいにしたまま、実力行使できるようにしておきたいのだ。

いずれも「領土・領海・領空を越えて南シナ海全域に主権を及ぼす」という中国の意図の表れだ。

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