教育面でも、この受難論に沿った変化が進んでいる。ソ連時代のような、生徒への軍事教練が導入された。歴史の書き換えも進んでいる。
プーチン氏の指示を受け、高校生年代用に2023年秋に導入された全国統一教科書では、ルッソフォビアを初めて取り上げ、「西側のあからさまなルッソフォビアの狙いは、ロシアの解体である」と記した。
米欧との対立軸として「ルッソフォビア」
まるでソ連時代に敵だった「資本主義陣営」のような位置付けなのである。今やロシアも米欧も経済面では同じ資本主義国家であり、経済制度上の対立はない。プーチン氏としては、ロシアと西側の対立軸を象徴するキーワードとして、「ルッソフォビア」を使い始めたのだ。
だが、こうした司法面、教育面での制度変更は、まだ途中段階の措置のようだ。新たな国づくりの最終的到達地点として、プーチン氏が根本的な、歴史的国家改造に踏み出す可能性が出てきている。
プーチン氏の側近であるロシア連邦捜査委員会のバストルイキン委員長が2023年11月22日、「国家イデオロギー」を制定する必要があると主張したのだ。同委員長は「国家イデオロギー」のあるべき具体的内容には言及しなかった。
しかし、興味深いのは、この発言が、ルッソフォビアが西側の「公式イデオロギー」になったとした先述のプーチン演説と時期的に相前後して行われたことだ。「西側の公式イデオロギー」と「ロシアの国家イデオロギー」が、踵を接して飛び出したのは偶然とは思えない。
「国家イデオロギー」と言えば、「共産党独裁」という国家の根本原則を掲げていたのが旧ソ連だ。ソ連憲法第6条で、これを規定していた。
だがこの規定はゴルバチョフ氏がペレストロイカ(改革)の目玉として、1990年2月7日に放棄を決めた。ソ連は1991年末に解体されたが、この日こそ、事実上「ソ連がソ連でなくなった日」であった。現ロシア憲法は「国家イデオロギー」の制定そのものを禁止し、今に至っている経緯がある。
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