この「数世紀にわたる」西側の敵意、を一言で象徴する言葉として、プーチン氏が最近の演説で従来以上に多用し始めたのが、「ルッソフォビア(ロシア嫌悪)」という言葉だ。
これは、主に18世紀半ばから19世紀半ばにかけ、フランスやイギリスで広まった反ロシア感情を指す、歴史的なロシア語だ。ロシアで長い間、使われなかったこの言葉を政治の舞台に復活させたのはプーチン氏自身だ。
ルッソフォビア(ロシア嫌悪)の受難国
2014年の一方的なクリミア併合を契機にした西側との関係悪化を受け、プーチン政権は、国際的孤立の原因はロシアの行動ではなく、もともとロシアを敵視している西側であると自らを正当化するために使い始めていた。侵攻開始の際にも使った言葉だ。
しかし最近、プーチン氏はこのルッソフォビア批判のボルテージをさらに一段と上げた。2023年11月末、「ルッソフォビアは、事実上、西側の公式イデオロギーになった」と宣言したのだ。
つまり、侵攻を機に形成された西側の対ロシア包囲網が一時的なものでなく、対ロ外交の長期的枠組みとして、ビルトインされた(組み込まれた)との認識を明確に初めて打ち出したのだ。
では、この「公式イデオロギー発言」にはどういう狙いがあったのか。筆者は以下のように解釈する。
東西冷戦時代は「資本主義体制VS社会主義体制」の2つの政治制度の競争であり、対決であった。それが現在は、ルッソフォビアこそ今後のロシアと西側との主要な対立軸であると、プーチン氏は言い切ったのだ。
ロシアがウクライナへの侵略国家であると西側から断罪されている中、ロシアはルッソフォビアの受難国であると説き、国民に団結と忍耐を訴えたのだ。
こうした受難論をベースに、プーチン氏は、2023年から新たな国づくりに踏み出した。代表的なのは、ルッソフォビアを初めて刑事罰の対象とする刑法改正の動きだ。
何をもって「ルッソフォビア」と規定するのか。まだ法律論議が続いているが、例えば、海外でのロシア国民に対する差別や、西側やウクライナを支持するような言動に禁錮5年の処罰を与えるような案が練られているようだ。
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