アップルは「キャッチアップ型」になった? イノベーションの季節は終わったのか

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音楽サービスだけでなく、今回のWWDCで発表された内容は、現時点におけるアップルの事業基盤を再点検し、ズレが生じている部分を調整しようという意図が見える。つまり、「イノベーション型」というよりも、「キャッチアップ型」なのだ。

たとえば、タブレット端末であるiPadの改良である。iPadはソファーで寛いでデモをしていたスティーブ・ジョブズ氏の印象が強烈だ。

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iPadでマルチタスクをできるようになる

つまり、iPadはあくまでコンテンツを受動的に使用するコンテンツプレーヤーという位置づけだった。能動的な作業はMacで行う、というすみ分けが明確だった。しかし今回、より本格的に作業に耐えられる、すなわちパソコンに近づけようという意図が、iPadの改良には見られた。マイクロソフトはいま、タブレット端末とPC、スマートフォンを融合するWindows 10によって久々に脚光を浴びている。デモの中では、そのマイクロソフトを意識した発言もあった。

その一方、保守的な姿勢もみせた。iOS、MacOS Xといった基本ソフトは、より使いやすく完成されたコンピュータへと向かう。とりわけiPhoneに関しては自らイノベーションを起こすのではなく、現時点の価値を最大限に引き出すことで満足度を高めるほうがアップルにとって理があるためだろう。つまり、iOS、MacOS Xでは、世の中とのズレがないと判断したわけだ。

アップルは守りに入ったのだろうか

キャッチアップ型といえば必ずしも悪い意味ではないが、まるで不具合のある箇所にパッチを当てるような対応である。この姿勢をみると、いよいよアップルは本格的な守りの姿勢に入ったのではないか、という観測も出てくる。

事業の太い幹となっている部分に関しては防衛的な対応が目立っているのだから、当然だ。Apple Musicのように現在の事業環境とのズレが大きくなった分野に関しては、新しい波に積極的に乗る姿勢を見せ、そのイノベーションも思い切ったものなのになっているが、厳しくいえば、これも守りだろう。

本当にアップルは守りに入ってしまったのか。筆者は、そうではないと考えている。あくまで今のような、パッチを当てている状態は、次の成長戦略に向けての準備期間だろう。

やはり、アップルは古い仕組みに従わず、新しい価値提案をアンチテーゼとして示してこそ、その価値を発揮できる。テレビ、自動車、医療など「リインベント(再発明)」による覚醒が可能な分野は、数多く残されているのだ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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