妻の転勤帯同で「主夫になった夫」が味わった窮地 夢のアメリカ生活のはずが「闇落ち」寸前に…

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妻に稼がれる夫のジレンマ ――共働き夫婦の性別役割意識をめぐって (ちくま新書 1773)
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一禎さんはその後、会社に復職せずにフリーのジャーナリストになりました。帰国後は大学院に通い、その修論をもとにした書籍『妻に稼がれる夫のジレンマ』をこの1月に上梓。自分以外の駐夫のリアルも紹介しています。

駐在生活、多くの人がぶち当たりがちな壁

マンガの中で描いたように、私も「駐妻」だった経験があります。私の場合はフリーのイラストレーター・コミックエッセイストという職業柄、海外でも仕事を続けることができました。なので一禎さんのようなアイデンティティークライシスには陥らなかったのですが、それでも赴任してしばらくは慣れない海外での家事育児との両立が難しくて仕事を辞めようかと悩んだりもしました。夫が多忙で出張も多くほぼワンオペ育児だったので、夫とのケンカも増えました。さらに現地でいろいろな人の話を聞いて、駐在帯同独特の大変さを思い知ったのです。多くの人がぶち当たりがちな壁をあげていくと、

・言語の壁
・生活文化の違い(たいていは、日本の便利さを思い知る)
・周りに友人がいない中での孤独な子育て
・子どもの園・学校問題(言語も文化も違う国での園と学校選びやそれにまつわるケアは、日本以上に時間が取られ、悩ましさも倍増)
・家事育児の負担の倍増(慣れない国での家事育児は勝手が違って慣れるまでに時間がかかる。ただし、家事育児の外注文化が日本よりさかんな国だと、日本在住時より楽になることもある)
・同じ駐在同士の人間付き合い(これは国や都市、会社によってかなり差が出る。駐在生活では、会社の同僚やその家族との付き合いも密になりがちなので、ヒエラルキーが強い会社にいるとかなりストレスフル)
・働きたくても働けない(国や会社の規定により、現地での労働も禁じられることがある)
・仕事のキャリアが積めない(「配偶者海外転勤同行休職制度」がある会社はほんの一部。また現地で仕事を見つけても、軌道に乗ったタイミングで帰国また他国に転勤などが起こりがち。キャリアを積み上げることが難しい)

こんなかんじでした。もちろん、こういったことを乗り越えて、海外生活をしっかり楽しむ人もいます。最近では、駐在帯同中にMBAをとったり資格をとったり、アクティブに新しいキャリアをつくっていく人も増えています。でも、それは小さい子どもがいるとそうとう難しいことです。

一禎さんは、さまざまな要因から、強いアイデンティティークライシスに直面しました。その生活の変化によって学んだこと、家事育児分担の変遷は次回以降に紹介します。

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ハラユキ イラストレーター、コミックエッセイスト

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はらゆき / Harayuki

雑誌、書籍、広告、Webなどの媒体で執筆しつつ、コミックエッセイの著書も出版。2017年から約2年間バルセロナに住んだことをきっかけに、海外取材もスタートさせる。著書に『女子が踊れば!』 (幻冬舎)、『王子と赤ちゃん』(講談社)、『オラ!スペイン旅ごはん』(イースト・プレス)、この連載を書籍化した『ほしいのはつかれない家族』(講談社)など。この連載のオンライン・コミュニティ「バル・ハラユキ」も主宰し「つかれない家族をつくる方法」を日々探求、発信中。ハラユキさんのHPはこちら

 

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