台湾総統選挙「だから私はこの人に投票する」 台湾選挙のリアル①・三つ巴の戦いで有権者は

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台湾では結局、2021年5月と2022年5月の2回にわたってパンデミックが発生した。一時は、医療従事者とベッド数不足といった問題が発生し、「感染者がいないときに政府は安心して何も準備していなかった。危機対応は不十分だ」という批判を浴びた。

「コロナ禍が世界中に拡散している間、台湾政府は自分たちがそうなるとは思ってもいなかったようだ。もちろん、パンデミックの発生は政府の過ちではない。当初は感染防止に成功していたのに、感染者が拡散した後に事前の対策がなかったことにとても驚いた」。当時の状況を、張さんは失望交じりで回想する。

張さんにとっては、柯文哲の存在が逆に強い印象を与えたようだ。2016年、当時台北市長だった柯文哲が同市に最後に残された跨線橋である「忠孝橋引道」を撤去した。

かつて台湾の鉄道が地上にあった時代に、忠孝橋引道が交通混雑の緩和に一役買っていた。しかし線路が地下に潜ったあと、この橋の役目はほぼ終わったまま残された。台北の歴史遺跡・北門の横にあることで、「景観にふさわしくない」との声も多かったので、柯文哲は市長として撤去し、これは彼の実績ともなった。

「2大政党体制に風穴を開けた民衆党」

「私の故郷では、道路工事や建築物の撤去作業に1カ月以上もかかる。政府の仕事とはしょせんそんなものだと思っていたが、跨線橋はたった8日で撤去されとても驚いた」と張さんは言う。

発言の小気味よさだけでなく、実行力もある程度立証されていると考えた張さんは、柯文哲に政治への希望を感じた。民進党が8年間も政権の座にいて、傲慢さと硬直化した姿が目についていたので、柯文哲と民衆党にチャンスを与えることを決めたのだ。

「これまで、選択肢は民進党と国民党の2つだけだった。今は柯文哲がこの2党体制に風穴を開けた感じがする」。台中出身の王筱雯さん(34)は、こう言う。建設会社で働く王さんはこれまで国民党候補に投票していたが、今回は違う。「既存の2政党による政治が続き、多くの人がそろそろそんな体制を変えようと」。

「政治家の節操のなさ」。これが王さんがそれまでの投票スタイルを変えた理由だ。

「2018年の選挙で、国民党の韓国瑜は高雄市長に当選した。それなのに欲を出し、わずかな在任期間で総統選に出馬した。彼を支持した有権者は、これに納得できるはずがない。今回も国民党の候友宜は、新北市長に当選したのに総統選に出馬した。市長という職責をどう考えているのか。あまりにも無責任だ」と不満を漏らす。

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