スタバで「フラペチーノ」飲む人が知らない"真実" コーヒーじゃない「看板商品」を持つ凄さとは?

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例えば、先にも触れたフラペチーノこそが、1990年代後半のスタバがグローバル企業になる足がかりになったと、ブライアン・サイモンは指摘する。

スタバがスペインに進出する際、フラペチーノのような、本場のコーヒーショップには置かれない商品があることで、既存のカフェと競合することなく出店を伸ばすことができたのはその一例だろう。スタバの「矛盾」を生み出すフラペチーノは、スタバの躍進を助けているのである。

ビジネスとしてきわめて有効に働いている「矛盾」

そして、詳しくは次回以降に譲るが、スタバを世界的企業に育てたハワード・シュルツは最初、フラペチーノを販売することに反対の立場だった。

「純粋主義なわたしは『どうしてわたしたちはこれをやろうとしているんだ? フラペチーノの会社にはなりたくない。うちはコーヒーの会社だ』と言ったんです」(「フラペチーノに反対したのは『間違いだった』スターバックスの元CEOハワード・シュルツ氏が明かす」/Business Insider Japan)

もし、スタバがコーヒーにこだわり、フラペチーノを捨てていれば……。

「そこにしかない」という特別感は「スタバに行きたい!」という動機を否応なしに私たちに持たせるが、それで実際に店舗が一店舗しかなければ、ビジネスとしての成長はない。「そこにしかない」のに「どこにでもある」、つまり行きやすいということで実際の利益を多くあげられるのだから、ビジネスとしてこの「矛盾」はきわめて有効に働いているといえるだろう。

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これまで、スタバがその「特別感」を保ち、躍進を続けることができた理由としてよく言及されてきたのは、「直営店の多さ」である。フランチャイズシステムに頼ることなく、直営で多くの店を経営することで、本部の意図がそのまま反映され、「特別感」が保たれ続けるというわけだ。

しかし、これは本当だろうか。いくら直営店が多いとはいえ、その店の数は莫大で関わる人の数も並の数ではない。単純に直営店だからといってその特別感が保たれ続けるというのは少し単純すぎるのではないだろうか。

やはり私は、スタバが持つ「矛盾」こそが、その経営をひっそりと支えてきたのではないかと考えている。そして、その「矛盾」について考えることは、これまでのマーケティングの考え方にはなかった、新しい経営の捉え方を示唆するものになるのではないだろうか。

これから数回、私はスタバの歴史を振り返りながら、この「矛盾」をひもといていく。それはどのような姿を私たちに見せ、どのようなことがその分析からわかるだろうか。(第2回:スタバ「フラペチーノを発明してない」意外な過去に続く)

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谷頭 和希 チェーンストア研究家・ライター

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

チェーンストア研究家・ライター。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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