東急「ホテルのサブスク」発端は新幹線通勤だった 一見コロナ禍の空室対策、実は発想は以前から

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「ホテルとの親和性はだいぶ前に考えていたが、当時は価格も高く『自分のやりたいこととは交わらない』と考えていた」と川元氏はいう。だがコロナ禍もあり、会社は新たなビジネスのアイデアを求めていた。2020年10月、「新たなアイデア」を求める役員宛てのメールを見た川元氏は、自分の構想にホテルを活用することを思い立ちすぐ社長室へ。直後に予定が入っていた社長からその場で3分だけ時間をもらい、「新しい稼ぎ方がある」とプレゼンするとOKが出た。その後は半年で準備が進み、2021年4月からツギツギの実証実験がスタートした。

発想は“お試し移住”を引き継いでおり、当初は39施設、30泊・60泊プランでスタート。次のステップでは180泊を加えた。ただ、利用者の意見を聞いたり自身でサービスを使ってみたりすると、「いろんな場所をうろうろしながら仕事をするのは、移住より豊かなんじゃないかと気持ちが変わってきた」。そこで短期間のプラン提供も開始した。現在は30日間に2・5・14泊できるプランと、30日連続プランという構成になっている。いずれも、同じホテルに連泊することも、毎日違う場所に泊まることもできる。

ホテルの客室
現在は各地の約130のホテルに宿泊できる(記者撮影)

ホテル側の利点はどこか

4度の実証実験を経て、正式に事業化したのはコロナが5類に移行した2023年5月。ホテルの需要はその後急速に伸びており、客室の稼働率は高く空室は減っている。客室単価もコロナ前を上回る施設も多い。例えば、東急が発表した月次営業状況によると、2023年10月のホテル客室単価は2万1803円で、2019年同月比で4000円以上高い。そんな中、2泊プラン2万3980円といった安い料金で、直前予約でも客室を提供するツギツギはホテル側にメリットがあるのだろうか。

これに対し、川元氏は「仮に客室稼働率が80%だとしても客室は残っている。そこをどう活用して利益を最大化するかがホテルの大きなポイント。ツギツギは同伴者1人が無料のため、食事などをしてくれれば客室単価だけでなく客単価が上がる」と説明する。オフピークの曜日やシーズンにも送客できる点も強みという。さらに直前の予約が多いため「最後の穴埋め」になる点もメリットとして挙げる。

西鉄ホテルクルーム博多祇園の客室
西鉄ホテルクルーム博多祇園 櫛田神社前の客室の1つ。このホテルも利用できる(記者撮影)

課題は移動手段だ。現在はLCCのピーチと提携してクーポンの提供などを行っているが、就航地は限られている。提携ホテルが全国に増える中、移動はユーザーにとって重要なポイントだろう。また、次第にオフィスへの通勤が復活しつつある今、各地を転々としながらのテレワークがどの程度浸透していくかも、今後会員数を増やすうえでの課題といえそうだ。正式に事業化された、コロナ禍明けのこれからが本番といえるだろう。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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