「あの人は今」状態からの脱却に向けe-tronが進化 名前も新たに遅れを取り戻す大幅改良の中身

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「いいところはそのまま継承する」というコンセプトにより、まるで近代建築のように重層的な立体を組み合わせたダッシュボードはe-tronから受け継いだ。このデザインコンセプトは他に類がなく、本当に美しいと私は思う。

センターには2つのタッチパネルを設置してデザインと操作性を両立させる(写真:アウディ・ジャパン)
センターには2つのタッチパネルを設置してデザインと操作性を両立させる(写真:アウディ・ジャパン)

もう1つ継続されてよかったのが、シフターだ。親指と手首の動きだけでギアポジションが選べる形状で機能的、かつ金属的な質感がよくて、“使う喜び”を感じさせてくれる。

扱いやすいデザインかつ操作感のよいシフター(写真:アウディ・ジャパン)
扱いやすいデザインかつ操作感のよいシフター(写真:アウディ・ジャパン)

アウディは、1980年代から素材感にことさら凝りまくってきたメーカーだ。その“よき伝統”が、Q8 e-tronなる次世代(BEV)乗用車にもちゃんと残っている。

伝統を感じる一方で、ハンドリング性能は現代的な水準に追いついていた。アウディが「フラッグシップ電動SUV」とうたうモデルだけある。

フラッグシップがQ8 e-tron全般のことなのかスポーツバックのことなのか、そこははっきりしないが、私が乗ったQ8 Sportback 55 e-tron quattro S line(長い車名だなあ)の操縦感覚は、上質だった。

こちらがSUVスタイルのQ8 e-tron(写真:アウディ・ジャパン)
こちらがSUVスタイルのQ8 e-tron(写真:アウディ・ジャパン)

以前のe-tronは、アウディ初の量産型BEVとあってかモーター独自のトルク感がことさら強調されていた一方、操舵感は重めだった。

車重を意識させつつ、それを大きなトルクでカバーする走行感に、ちょっとマッチポンプ的なところを感じたものだ。

それが、Q8 e-tronではぐっとスムーズでナチュラルな操縦性になっていた。「まったく別モノ」といっていい仕上がりである。他社のBEVと互角の操縦性を得て、私は嬉しくなってしまった。

発進加速は、エンジン車のようにトルクが徐々に積み増されていくような感覚になったし、ハンドルと車体との動きは一体感がしっかりある。2600kgもの車重は、まったく意識させない。足まわりはしなやかに動き、高い静粛性とともに高速域でも快適だ。

「あの人は今」からの脱却

e-tronは、2019年に発売されたときこそ大きな話題を呼んだものの、その後、各社からBEVのSUVが次々に発売され、若干“あの人は今”状態になっていたのは事実。

それが今回の大幅改良で、しっかりトレンドをキャッチアップしたモデルになったといえる。存在感も取り戻せるだろう。

会話型のボイスコントロールなどは、はっきりいって使いにくいけれど、クルマとしての本質的な部分はとてもよくできている。アウディのエンジニアに、改めて敬意を表しておこうと思う。

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小川 フミオ モータージャーナリスト

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おがわ ふみお / Fumio Ogawa

慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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