テレビ局の放送収入激減と「ジャニーズ問題」 「70年間築き上げてきたやり方」はもう続かない

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テレビ朝日の検証番組についてはより専門的な視点で語る人が他にいるので、ここではこの辺にしておきたい。ただ私がここで言っておきたいのは、テレビ朝日も含めて各局とも1回やっただけでは済まないだろうことだ。自局のアナウンサーが出てきて襟を正して反省の態度を示したが、ジャニーズ事務所自身の今後が見えてきてテレビ局の側の今後もプレゼンしないわけにはいかない。

ジャニーズ事務所の問題を「企業の宣伝部はさほど気にしていない」などと軽く扱う向きもあるようだが、もっと根源的な企業とメディアの関係の問題だ。そしてこの件が、放送事業の売り上げが下がるだけだとはっきりした今年に同時に問題になったことの意味を考えるべきだと思う。

もはや宣伝部だけの話ではないことは、当初から経団連など企業の側が再三コメントしていることからも汲み取れる。問題への対処を誤ると、企業から「選別」されかねない。

テレビCMは企業にとってブランド価値を示す場であり、グローバルで活動するような大企業にとっては信頼できないメディアと取引を続けることは大きなリスクになる。ジャニーズ事務所の問題は明確に人権に絡む事件であり、性被害を起こしていた創業者の事務所とズブズブでつきあってきた日本のテレビ局も咎を受けざるをえない。そこをきちんと反省したうえで今後を示せないメディアは、ヘタをすると企業が取引を停止しかねない。これまでの経済団体のアナウンスは十分それをにおわせる内容だったではないだろうか。

実際、すでに自己検証を番組の中で行ったTBSは、さらに「会社としての検証」を準備中だと言われている。TBSの検証は土曜日夕方の「報道特集」の中でのもので、会社としてではなく番組として検証した内容だった。日本テレビも「news every.」の中だったが局の幹部が出演し、テレビ東京、テレビ朝日は特番として放送したので会社として検証した感が強い。TBSとしては、企業からの信頼を得るにはあらためて会社としての検証が必要と考えているのではないか。どんな検証を行うのか、その放送が待ち遠しい。

放送収入の激減とジャニーズ事務所問題が同時に顕在化したことには、テレビ局の事業としてのあり方から社会の中での役割まで根本的に見直すときだという意味があると筆者は考えている。70年間築き上げてきた今のあり方だが、もう持たないのだ。

バラエティだらけで多様性が見られない

筆者が一番感じるのは、テレビ番組に多様性が見られないことだ。19時を過ぎると、基本的にバラエティだらけだ。その間を埋めるようにドラマが入り、ニュース番組もあるが、基本的に「テレビ=バラエティ」になってしまった。同じタレントが次の時間には別のチャンネルに出て、クイズやゲームや街歩きやグルメで遊んでいる。

視聴率のため仕方ないというのかもしれないが、いまやその視聴率がぐんぐん下がっている。視聴率を追い求めて同じタレントで同じような番組を作って、その結果視聴率が下がっているのだ。「テレビ=バラエティ」という頭を、切り替えるべきときではないか――。人々は、特に若い人は、テレビを見て笑いたいんでしょう? それはもはや思い込みで、だから視聴率が落ちている。そんなことでは国民や企業との間に「信頼」は築けなくなった。

テレビ朝日の検証番組では「公共性」という言葉が何度も使われた。民放だって国民の資産である電波を使う公共的な存在のはず。そこにテレビ局が向かうべき次の方向性がある。公共性で人々の関心を集め、社会の役に立ち、企業が認めてくれる。「信頼」が今後は必要になる。2023年度を、テレビ局は「信頼」を取り戻す元年だと捉えてもらいたいものだ。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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