広島ダイソーで売れまくる便利グッズの正体 そこには「品位」を保つ努力があった

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次々と売り場へ向かう海上自衛隊・呉教育隊の一般候補生

まずは、現地で街頭調査をしてみた。意外にもアイロングローブをほとんどの人が知らない。当然持っている人もいない。地元を愛する広島カープファンに聞いてみるも、やはり手掛かりはつかめつず。こうなったら、売り場で確かめるしかない。

売り場で張っていると、次から次へと大群のように押し寄せてくる軍団がいた。全員が同じ服を着ている。セーラー服。女性ではない。男性である。彼らは海上自衛隊・呉教育隊の一般候補生だった。わかりやすく言うと、海上自衛隊の新人さんだ。

これが「アイロングローブ」。手袋のようにはめて使うアイロン台のようなものだ。TBSテレビ『世にも不思議なランキング なんで?なんで?なんで?』。6月1日(月)放送

店員さんに聞くと「春の一定の時期にかなりまとまって売れる」と言う。広島県呉市は古くからの造船、製鉄の街。あの「戦艦大和」が作られたのもここである。そんな呉の街には、海上自衛隊・呉基地があり、その周辺には多くの海上自衛隊関連施設がある。

それにしても海上自衛隊の新人さんが、いったいなぜ、アイロングローブを買いまくるのか。ダメ元で取材を申し込むと、まさかのOKが出た。

取材に応じてくれたのは海上自衛隊の第1術科学校。ここでは、船で砲術、航海、潜水などの勤務に就く隊員に対して、専門的な教育を行っている。

なんと、教官たちがチェックしていたのは…

自衛官としての品位を保つため、身だしなみにも気をつけねばならないという

アイロングローブの謎を解くヒントは、朝礼で行う隊員のスピーチ中に見つけることができた。教官やほかの隊員達に向けてスピーチする中、教官達はなぜかいっさいスピーチを聞いていない。教官達が厳しい目を向けているのは、隊員たちの……セーラー服?

教官たちがチェックしていたのは、アイロンの掛かり具合。シワのひとつも許されないという。それゆえに隊員たちは、セーラー服に毎日、アイロンをしっかり掛ける。そのために必要なのが、アイロングローブというワケだ。

というのも、セーラー服は折り目が多いうえに、前や後ろに“あき”がない筒状になっている。普通のアイロン台では掛けにくいので、アイロングローブが欠かせない。教官が厳しく服を見るのは、身なりを整えて品位を保つため。これも立派な訓練のひとつなのだ。

この日は、全校生徒が校長ほか隊長たちの前を行進する試験だった。
服装、歩き方、隊列すべてがチェックされ成績につながる。そして制服同様、厳しくチェックされるのが時間だ。隊員たちは時間どおり正確に行動しなければならない。もし時間に遅れようものなら、ものすごく怖い教官に……後はご想像にお任せする。

アイロングローブは、そんな時間に追われる隊員にとって、素早く服のシワを取る必需品。「春にだけ売れる」のは、新人が一斉に購入するため。アイロングローブを入手したそのときから、呉の海上自衛隊員としての第一歩を踏み出すのである。

それにしてもアイロングローブ。広島・呉のそれも自衛隊員のセーラー服向けでなくても、一般的な便利グッズとしてもっと普及してもよさそうな気もする。

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