なぜ王室は世界中で愛され続けるのか?--イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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貴族に生まれた人々や、結婚して王族の一員となった人々は、プライバシーがなく、人間関係が歪められ、不条理な礼儀作法に縛られる生活を強いられる。それはあまりに残酷だ。日本の皇后と皇太子妃は民間出身で、共に体を壊している。

映画スターも同様にアルコールやドラッグの犠牲になり、ノイローゼに陥るケースが多いが、彼らは少なくとも自分の生活を自分で選んでいる。だが、王や王妃は自分で自分の生活を選ぶことはできない。チャールズ皇太子は庭師よりははるかに幸せだったかもしれないが、彼には選択肢はまったくなかった。

ヨーロッパの王室に期待される今後の役割

王室が社会や歴史が連続しているという意識を国民に与えていることは確かだ。これは危機や急激な変革の時代には重要である。フランコ将軍の独裁政治が終わった後、スペイン王は国民に社会の安定性と継続性に対する信頼感を与えた。第2次世界大戦中、ヨーロッパの王室はナチスの占領下で国民に希望と統合の意識を与え続けた。

一方で王室には、少数派の間で支持されることが多い、という側面もある。ユダヤ人はオーストリア・ハンガリー帝国の最も忠実な臣民であった。フランツ・ジョセフ一世は、ドイツの反ユダヤ主義者によってユダヤ人が脅威にさらされたとき、彼らのために立ち上がった。彼にとって、ユダヤ人やドイツ人、チェコ人、ハンガリー人は、どこに住んでいようとも彼の臣民であった。人種的国家主義が台頭したとき、これが少数派を守ることになったのだ。

この意味で、王室はイスラム教会やカトリック教会と少し似ている。すべての信者は神や法王、あるいは皇帝の目には平等なのである。それが貧しい人や疎外されている人々の心に訴えかけるのだ。

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