神宮外苑「再開発」は行き過ぎた資本主義の暴走か 「高層ビル3棟」の建設計画に国際機関も待った!

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9月7日には、世界文化遺産の審査登録も行うユネスコの諮問機関「イコモス」本部が、「文化遺産の不可逆的破壊」などとして、「ヘリテージ・アラート」を発出。エリザベス・ブラベック文化的景観委員長はオンライン会見で、「事業者にはSDGs遵守への疑問が突きつけられる」と述べた。

都には環境アセスメントの審査のやり直しなどを求め、10月10日までに対応を回答するよう求めた。イコモスのヘリテージ・アラートは世界で24件目、それぞれで一定の計画見直しが行われたケースが多い。

ユネスコの諮問機関「イコモス」本部は、「文化遺産の不可逆的破壊」と指摘(記者撮影)

明治神宮外苑は、明治天皇の崩御をきっかけに内苑とともに整備された。国が整備した神聖な神社である内苑とは対照的に、外苑は大衆が集う庭園となることを目的に民間主体で整備された。

事業を進めたのは民間組織の「明治神宮奉賛会」で、会長には徳川宗家第16代当主の徳川家達(いえさと)公爵が就き、副会長に渋沢栄一、阪谷芳郎(当時の東京市長)、三井八郎右衛門が名を連ねた。703万3640円の献金、54種3190本にのぼる献木も樺太など全国から集まり、1926年に竣工した。

聖徳記念絵画館を中心に、児童遊園や陸上競技場、野球場が配置され、銀杏並木から絵画館を望むヴィスタ景(見通しのきく直線的眺め)は日本有数の景観になった。

3mを超える高木だけで743本が伐採

日本イコモス国内委員会の石川幹子理事は、「神宮外苑は日本が世界に誇る景観。樹種にも意味があり、1本1本に献木した人の思いや物語がある」と語る。

日本イコモス委員会は2022年1月に再開発で約1000本の樹木が伐採の危機にあることを指摘し、大きな反響を呼んだ。伐採計画は圧縮されたが、それでも3mを超える高木だけで743本が伐採される。保存予定の4列のイチョウ並木も、すぐ脇に巨大な野球場が建設されることで雨水や地下水の供給が遮蔽され、「存亡の危機に瀕している」(石川氏)という。

2023年3月、作曲家の故・坂本龍一氏は逝去する直前、「目の前の経済的利益のために先人が守り育ててきた貴重な樹々を犠牲にすべきではありません」と小池百合子都知事宛に手紙を送り、「公」の視点からの再考を求めた。これに対し小池知事は、「事業者の明治神宮にも手紙を送られたほうがいいんじゃないでしょうか」と応じた。

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