「執拗な円安」が日銀にマイナス金利解除を迫る 春闘を待っても「十分な賃上げ」の朗報は来ない

拡大
縮小

もちろん、日本がアルゼンチンやトルコと同じとまで言うつもりはない。インフレ抑制のために政策金利が100%を超えるアルゼンチンや、いまだ前年比60%近くのインフレ率が続くトルコと日本を比べるわけにはいかない。

日本の資金循環構造はいまだ「政府ー日銀ー民間銀行」が三位一体となって国債を管理しており(その善しあしは別として)、それらの国々のように利回りが急騰するようなことは考えにくい。

「堅調な春闘」ではなく「執拗な円安」で解除

しかし、債券市場とは異なり、為替市場はいつでも直情的だ。日本の事情に明るくない海外勢からすれば「アメリカに匹敵するインフレ状況でもマイナス金利を堅持する円」は売り仕掛けするには十分なテーマ性を帯びている。

しかも、いくら円売りで仕掛けても日銀が緩和路線を堅持してくれるのならば、円売りで大きく負けることも考えにくい。日銀金融政策決定会合と同日に公表された8月消費者物価指数(CPI)は総合ベースで前年比3.2%と前月からマイナス0.1%減速したものの、アメリカのそれとほぼ同じ伸び幅が続いている。

日米欧のインフレ率

マイナス金利解除は「堅調な春闘」という朗報ではなく「執拗な円安」という悪報に反応する格好で決断される公算が大きいように見受けられる。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT