ユニ・チャーム時価総額が「花王超え」の納得理由 同じ商品群でも10年で明暗分けた「戦略の妙」

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高シェアなのが、衣料用洗剤やシャンプーに使われる界面活性剤の主原料の1つである高級アルコールや、食器用洗剤や殺菌剤等の原料となる三級アミンだ。欧米などで引き合いが強く、幅広い産業に供給している。5Gや6Gといった通信分野向け半導体の製造工程で洗浄などに使用される薬剤の開発も強化している。すでに大手企業からの採用が確定している。

ケミカル事業の売上高は4025億円(2022年度、内部取引含む)で、グループ内のシナジーも大きい。

「生産設備や原料拠点の共有、技術の相互転用もできる。たとえばドイツで開発された肌に優しい洗浄基剤が、スキンケアのビオレに使われるケースもある」(ケミカル事業部門統括の片寄雅弘氏)。商品を垂直統合で生産することで、コストも抑えられ差別化できるメリットもある。

独自性で反転攻勢する

花王は消費者向け商品でも海外を攻める方針だが、独自商品でライバルとの正面衝突を避ける戦略を採る。たとえばデング熱が社会問題になっているタイでは、殺虫成分を使わずに化粧品等で使われるシリコンオイルを用いたスキンケア「ビオレガード モスブロックセラム」を発売した。肌の表面に蚊が止まらなくなる新技術は、花王ならではの強みだ。

スキンケアなどは尖った技術で、海外市場の攻略を目指す方針。「中国やインドなど地域ありきで進出できる商品を考えるのではなく、花王が持つ『世界で勝てる技術』を軸に、それが必要な地域に商品展開していくという方針に転換したとみて、期待している」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の佐藤和佳子シニアアナリスト)。

「消費者の要求水準が世界で最も高い」と言われる日本市場で、切磋琢磨するユニ・チャームと花王。世界的ガリバーのP&Gやユニリーバと肩を並べて、各国でシェアを拡大していく余地は大きい。真価が問われるのは、まさにこれからだ。

会員向けの特集「どうした花王!」では、以下の記事をお読みいただけます。

ついに花王が抜本改革「3つの誤算」が招く危機

花王が20年以上も標榜した「EVA経営」見直す背景

花王の弱みが顕在化し「商売の中身」が悪くなった
伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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