「中国EVの攻勢」にドイツ自動車産業が震えた日 「ヨーロッパの病人」の心臓部に迫る時代の転換

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「失敗を恐れる気持ちの影響は甚大で、日常的な業務プロセスの障害となる」。スタントン氏は「私たちはそうしたメンタリティを完全に払拭している」と話した。

ドイツ企業を悩ませている大きな要因の1つに、エネルギー価格の高止まりがある。

政府のエネルギー失政で国内産業が空洞化

ドイツは何十年もの間、鉄鋼や自動車の工場稼働を維持する安定した電力供給を誇りとしていた。ところが1年前、ウクライナ支援に踏み切ったドイツに対しロシアが天然ガスの供給を停止すると、ガス価格は4倍以上に急騰。多くの企業が生産縮小を余儀なくされた。ガス価格はその後低下したとはいえ、2021年に比べると2倍近い高値が続いている。

その影響で、化学メーカーのように大量のエネルギーを必要とする企業は長期計画に不安を感じるようになっていることが、企業を対象とした年次調査で明らかになった。ドイツ商工会議所(DIHK)が実施したこの調査によると、政府のエネルギー政策に対する信頼度は過去十数年で最低の水準に落ちている。

こうした不安から、多くのドイツ企業はすでに計画していた投資の見直しを進めている。VWは今年に入ってから、ドイツに2番目のバッテリー工場を建設する計画をご破算にする決定を下した。

VWはすでに、ヴォルフスブルクの本社に近いザルツギッターとスペインのバレンシアでバッテリー工場の建設を進めている。今春には、ヨーロッパ以外で初となるバッテリー工場の建設地にカナダのオンタリオ州を選んだと発表した。手厚い優遇措置とドイツより3分の1ほど安い産業用電力価格に引き寄せられた結果だ。

EV生産能力拡大のために海外に目を向けているのはVWだけではない。ミュンヘンに本社を置くBMWは今年2月、メキシコに8億ユーロを投資し、高電圧バッテリーとEVの新モデルを生産すると発表した。この新モデルは2025年にハンガリーにある同社工場で生産が開始される予定だ。

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