ガソリン価格200円目前に「補助金延長」の大問題 根拠も出口戦略もない「ガソリン補助金」の弊害

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補助金延長とは別に、「トリガー条項発動でガソリン価格を抑制するべきだ」との意見も根強い。トリガー条項とは、ガソリン価格が3カ月連続で160円を超えた場合、特例(暫定)部分の25.1円を減税する措置(3カ月連続で130円を下回れば税率は元に戻る)。

2010年の民主党政権下で租税特別措置法が改正されて設けられた制度だ。ただ、2011年の東日本大震災で復興財源確保のため、トリガー条項は凍結され現在に至っている。トリガー条項の凍結解除はもともと2021年秋の衆院選で国民民主党が公約に盛り込んだもので、2022年3月には政府・与党も前向きに検討していた。

しかし、ガソリン税をめぐっては、過去に「ねじれ国会」が原因で1カ月だけ暫定税率が失効し、税率が短期間に目まぐるしく変わったことで消費者、ガソリンスタンドで大混乱が起きた。ある自民党関係者は、「灯油や重油などが対象にならないし、とくに地方の税収を失うことにもなる。そもそも野党の案には乗れない」と話す。

国は財源をみすみす手放さない

一方、ガソリン税に消費税が上乗せされている「二重課税」「特例税率」に対して、元売りの業界団体である石油連盟や日本自動車連盟(JAF)は是正や廃止を求め続けている。

1989年に消費税が導入された際、二重課税にならないよう諸税との調整が行われたが、石油関連の税金は道路特定財源として使途が決まっていることを理由に、ガソリン税などを含む販売価格に消費税が上乗せされることになった。2009年に道路特定財源が廃止され、石油諸税は一般財源化されたが、調整措置はとられていない。

だが、現在ガソリン税は2兆3000億円を超える税収になっており(2022年度)、国はこの財源をみすみす手放す気配はない。

結局、繰り越し予算を財源にガソリン補助金は延長されることになった。業界からは、「補助金延長の是非を言う立場にはないが、出口ではソフトランディングさせてほしい」(石油連盟)、「SS店頭などで混乱が発生しないよう緩やかに補助金を縮減していくなど、適切な対応をお願いしたい」(全石連)との声が相次ぐ。

ガソリン補助金の延長で、政府は「出口戦略」という難題を抱えてしまった。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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