来年も猛暑?今夏がこんなにも「暑くなった」根因 日本人科学者が語る世界各地で起こる熱波の背景

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工業化前の1850年以降の長期の時間軸で見ると、人由来の気温上昇が顕著である一方、自然変動による寄与は平均すると小さい。しかし、より短い期間で見ると自然変動が地球全体の気温を押し下げたり、押し上げたりしていた時期もあった。

以下のグラフは、1990年代後半から2010年代始めまでの期間、気温上昇がやや遅くなったことを示している(折れ線の赤部分)。

(画像:小坂優准教授提供)

今年と来年は高温になる可能性が高い

この間も、CO2濃度は上がり続けていたため、温暖化に対する懐疑論が高まった。小坂氏は、この10年余りの気温上昇の停滞期には、ラニーニャ現象による熱帯太平洋の水面温度低下が地球の平均表面気温を下げていたことを突き止め、本来であれば人由来の影響で上昇していた気温が一時的に抑えられていたという。このように自然変動は気温上昇を抑制する場合もあり、また逆のケースもある。

平均気温は、2015年から2016年は明確に上昇に転じたが、その後上下を繰り返している。小坂氏は「こうした年々の揺らぎには、自然変動要因が大きい」とみる。また今年と来年について、「世界の年平均気温は結構、高くなる可能性がある」との見方を示す。

その理由として、現在発達中のエルニーニョ現象がある。エルニーニョ現象は通常12月に最大化し、それに遅れて地球全体の平均気温上昇が最大に達する。

地球は大気中に温室効果ガスがあるため、世界で平均すると15℃ぐらいの快適な温度を保っており、仮にそれがないとマイナス19℃ぐらいになると言われている。WMOが8月に発表した過去最高の世界平均気温17℃は、あくまで7月単月の数字だ。

小坂氏によると、7月は世界平均気温が、年間で最も高くなるため、年平均では16℃台に落ち着く可能性があるという。それでも、以下の図が示すように世界平均気温が上昇傾向にあることは間違いない。

(画像:世界気象機関)

毎年変動する特定の季節や地域の気象要因について、自然変動と人為要因とに厳密に切り分けることは難しい。ましてや自然由来の異常気象に対して、人類が直接介入することはできない。

一方、人由来のCO2は、いったん大気に排出されると、自然のプロセスだけでは、何千年もの間、完全には除去されずに大気中にとどまると言われている。

CO2などの排出量の一方的な増加は、環境保全と経済活動の両立が実現していないことを意味している。極端気象の発生を抑えるためには、両者のバランスを考えながら、温室効果ガスの排出を実質ゼロにしていく必要がある。

伊藤 辰雄 ジャーナリスト

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いとう たつお / Tatsuo Ito

大学卒業後、ロイター通信社、ウォール・ストリート・ジャーナルなどで記者として、経済・金融政策、金融市場を中心に30年以上に渡り取材。日本語と英語で執筆。2022年4月から上智大学大学院・地球環境学科に在籍し、フリーランス・ライターとして環境分野にも取材対象を広げる。

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