廃止決定「上野動物園モノレール」の歴史的意義 新時代の交通「実験線」、独特の方式は広がらず

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ランゲン式は、車体上部から伸びた1本の懸垂腕によって軌道桁からぶら下がり、バランスを取りながら走行する。また、鋼鉄レールと鋼鉄車輪が用いられている。上野式は、このランゲン式をベースに、騒音低減の観点からゴムタイヤを採用するなどの改良を加えたもので、都交通局のほか、日本車輛、東京芝浦電気(現・東芝)が技術開発にあたった国産技術に基づくモノレールと位置づけられている。

ヴッパータール ランゲン式モノレール
ドイツ・ヴッパータールのランゲン式モノレール。車体上にある鋼鉄のレール上を鋼鉄製車輪で走っていることがわかる(写真:enomoto/PIXTA)

当時、鉄道車両にゴムタイヤを利用した例は、「パリの地下鉄のみで、他にその例がなく、わが国では始めての試みとして、種々の実験・研究を経て採用された」と、都交通局工務部長を務めた塩入哲郎氏が『鉄道ピクトリアル』1970年4月号に寄稿した『上野モノレールの使命』中で述べている。

また、塩入氏はランゲン式をベースに技術開発に当たった理由について、「昭和30年当時はサフェージュ型は実験の段階で、アルウェグ型は鉄車輪を使用した模型が制作された程度の時であり、どちらの形式をも採用することはできなかった」と述べている。

アルヴェーグ式(=アルウェグ型)は、西ドイツ(当時)で開発が進められた跨座型モノレールで、後に東京モノレールなどで採用される。また、サフェージュ式はフランスで開発が進められた懸垂型モノレールで、後に湘南モノレール、千葉都市モノレールなどで採用される。こうした新技術が未完成だった段階において、都市交通としての長年にわたる実績のあるランゲン式を技術のベースに据えたのは、当然のことであった。

「左右非対称」という欠点

しかし、この方式のモノレールには大きな欠点が2つある。まず横風等に弱く、横揺れ時に懸垂腕と軌道が接触しないよう、車体の大きさに比して不釣り合いに大きく、しかも湾曲した懸垂腕にしなければならない。これが重量増、空気抵抗になるのは当然である。また、単純に横揺れを押さえようとすると、カーブ走行時の振り子運動をも制限することになり、その調整には特殊な仕組みが必用となる。

もう1つの欠点は、複線にする場合に軌道桁を支える支柱をT字型にしたときに(道路の専有面積を小さくするにはこれが望ましい)、懸垂腕が左右非対称であることから、終点駅で、そのままスイッチバックして上り線から下り線に移すことができず、転轍機(ポイント)で方向転換させようとすると、かなり複雑で大がかりなものになってしまうことである。そのため、ヴッパータール空中鉄道では、路線両端の駅にループ線を設け、方向転換させている。

ランゲン式モノレール ポイント
ランゲン式モノレールの転轍機。軌道桁を動かす大がかりな仕組みとなっている(出典:『モノレールの技術的諸問題』三木忠直)

上野懸垂線は単線で1編成のみの往復運転であり、この欠点は問題にならなかったが、もし、上野式で実用線を建設するのであれば、やはり両端をループにするしかなかったであろう。

実は、こうしたランゲン式・上野式モノレールの欠点を解決したのが、その後間もなく登場する横揺れに対応する「水平ダンパー」を付けた「左右対称」の特殊な懸垂リンクを採用したサフェージュ式モノレールなのである。

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