ネスレ「バリスタマシン」価格設定の気になる裏側 「100円の壁」を越えたキットカットのアイデア

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■メーカー、顧客、小売、流通がハッピーになれたドルチェグストとバリスタのイノベーション

ネスレは、インスタントコーヒーの消費減退の理由は、家族構成員数が減り、「1人だけのためにお湯を沸かして淹れるのが面倒だ」と感じることがインサイトであると考えた。また、顧客が感じるインスタントとレギュラーコーヒーの最大の違いは、淹れるときの「香り」であることがわかった。

この差を超越するためにバリスタマシンを開発し、インスタント・コーヒーをカプセルに封入し、そのコーヒーを淹れるマシンから売ることをはじめた。1杯ずつ楽しむことができ、レギュラーコーヒーより後片づけがずっと便利である。マシンで淹れると1〜2mの距離でも香りが伝わり、インスタントコーヒーのイメージを覆すことができた。

これらがユーザーベネフィットだ。

バリスタマシンは日本発

なお、バリスタマシンはスイス本社に依頼して日本が世界初で作らせたものだ。

レギュラーコーヒーをカプセルに詰めたドルチェグストとバリスタは、付加価値が取れる価格設定ができて、かつ、現在でも価格支配力を保持している。

バリスタマシンは家電量販店では売ることが難しいため、「直販価格」と「一般販売の価格」で再検討し、3万9800円と5万9800円で地域を変えて売り比べたが、売上はあまり変わらなかった。ヒアリングしてみると、「顧客が価格で品質の担保をしたがる傾向がある」ことがわかった。そこで価格を上澄み価格に設定した。

さらに現在では、プリンターやジレットのビジネスモデルに倣って本体価格を抑え、補充品で儲けるモデルへと舵を切った。結果、マシンの販売量も増加し、大きなビジネスモデル・イノベーションを成功させた。

時系列的には2010年くらいから家電量販店で販売したものに対して、「直販の場合はもろもろのハンドリングコストがかからないのでは」というアイデアが湧き、内製化の仮説をもとに自社通販をやることにした。

コールセンターも物流も整え、通販広告も打ってテスト販売をはじめたところ、結果は好評だった。

当初、D2Cはメーカーが小売のシェアを奪う構図になりがちなので小売は嫌がった。しかし、ふたを開けてみると、商品が何万円もするものなので、店頭で試飲して買う人が増えていったのだ。

結果として、流通とも共存することができ、Win-Winになった。

ドルチェグストのカプセルはスターバックスと提携したラインナップを含めて、今では自社通販での売上が半分を占めるほどにまでシェアが伸びてきた。残り半分は流通での販路だ。

このシェア構造がつくれたために価格を守れるモデルとなり、価格支配力を保持できている。現在、数百万台の機械が設置されており、専用のカプセルコーヒーだけでも大きな売上を確保している。

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