ネスレ「バリスタマシン」価格設定の気になる裏側 「100円の壁」を越えたキットカットのアイデア

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同社は「食品産業」というオールドエコノミーを主戦場としていたが、2001年に栄養・健康・ウェルネス企業への転身を宣言した。これによってヘルスケアを含む「21世紀型の食品関連企業」へと変身してきた。現在ではすべての食品関連企業のなかで時価総額が世界一となっている。

■付加価値でリノベーションを生み出す「価格支配力」への第一歩

ネスレのマーケティングは3種類のイノベーションを複層的に活用し、進化させている。

ネスレでは単なる商品の改定を「リノベーション」と呼称し、それを超える「顧客インサイトからのイノベーション」をマーケティングの中核にしようとしている。

ネスレのキットカットはチョコレート市場で売上1、2位を争うリーディングブランドだ。それにもかかわらず、ネスレのマーケティング担当役員の方にインタビューすると、「厳密に言えば、通常のキットカットに、価格支配力はない」と仰る。

昔なら238円とか298円とかだった袋モノ(袋に入った大容量商品)は今でこそ398円だが、ドラッグストア、ディスカウントショップだと198円にまで安価になる。その価格帯でなければディスカウントショップは売ってくれない。

特売ありきの商品では勝てない

なら、どうやって利益を出していけばよいのか? 特売ありきの商品では、価格支配力を持つのは難しい。実質的な売価に対応できるかできないか、対応するかしないかの意思決定が必要で、つまりはそもそも価格をはねられない商品をつくることが重要だ。

2003年、単品のキットカットを従来にはなかった箱パッケージへ変え、少しの値上げではあるが小売価格を100円に上げた。その後、期間限定でストロベリーやオレンジなどの付加価値商品を上市したが、流通の常識である「100円の壁」を超えることはできなかった。

ただ、抹茶のキットカットは高コストという要因も背中を押して、「120円で出す価値がある」という交渉を社内で進め、営業とも交渉して、最終的には「顧客が納得するならやってみる価値がある」ということで販売して、これが成功した。

120円にすることが成功した流れで、付加価値に応じたハイクラス向けの商品を出せる素地ができあがりつつある手応えを感じていたという。

だが、これだけではリノベーションにすぎない。

■パティシエと組んで10〜20倍の高価格で販売した「キットカット ショコラトリー」

この苦戦から生まれたのが、「キットカット ショコラトリー」というプロダクト・イノベーションとビジネスモデル・イノベーションである。

著名なチョコ・パティシエと組んだこの商品は、CVSやスーパーマーケットの棚で小売店任せに売るのではなく、百貨店で自ら顧客に、直接的に通常キットカットの10〜20倍の高価格で売った。これによって価格支配力を保持しようとしたものだ。

原材料を厳選したキットカットの開発と百貨店での販売は、その場所が持つ特性上、顧客の「怒り」を買いにくい。さらに、単体では採算が取れなくても、ブランドの価値向上につながっている。

ただし、数量が限定的なのでスキームは今後、見直される可能性はある。

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