「お金の起源は物々交換」信じる人が知らぬ大欠陥 もっともらしい説だが「歴史的事実はない」

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逆に、労働者が雇用主に「働いて返すので、大麦を前借りさせてください」と言って、借りることもあったでしょう。そういう「貸し借り」を忘れないように、「借用証書」を書いていた。これがおカネの起源だとグレーバーは言います。

借用証書は、最初は単なる木片か何かでしたが、使われていくうちに仲間内で、またしばしば権力者などの後ろ盾もつき、「信用」がつくようになりました。「この借用証書があれば、必ず返してもらえる」という信用です。この借用証書には、「いつ誰にどのぐらいのモノを貸した」という情報が記録されるようになりました。

借用証書で他のモノを借りることもできるようになった

これをもとにまた、借用証書で他のモノを借りることができるようにもなりました。例えば、Aさんに大麦10袋を貸しているBさんが、Cさんの豆を借りる場合。Cさんは、「この借用証書があれば、大麦10袋を必ずゲットできる」と信用して、借用証書と引き換えに豆を渡してくれるのです。

Cさんが、また何か別のモノを借りたら、貸した相手はまた借用証書を受け取り、貸し借りの情報を記録します。こうして借用証書の貸借契約が次々と重ねられ、人びとの手から手へと渡っていくようになったのです。この借用証書がおカネになったというのがグレーバーの説です。

一見、先ほどの「物々交換」の起源説と似ていますね。しかし、人びとの間を回っているのは、金属片という「モノの代用品」ではなく、借用証書です。借用証書のことを英語で「IOU」と言いますが、これは“I owe you”(私はあなたに借りがある)の略です。大事なのはモノではなく、「誰に何をどのぐらい借りている」という、その関係性なのです。

グレーバーはこうつづっています。

物々交換からはじまって、貨幣が発見され、そのあとで次第に信用システムが発展したわけではない。事態の進行はまったく逆方向だったのである。(前掲『負債論』)

「信用」は英語でクレジットです。みなさんもクレジットカードでの買い物が、後払いであることをご存じですね。つまり代金を借りたままにしているのです。

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