南阿蘇鉄道、7年ぶり「全線再開」までの長い道のり 三陸鉄道の事例を参考に復旧スキームを構築

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2016年4月14日、熊本地震が南鉄を直撃した。中松―高森間は被害が比較的軽微で3カ月後に運転再開したものの、立野―中松間は第一白川橋梁など重要インフラが被災。「廃線を考えるほど甚大な被害を受けた」と、草村社長が当時を振り返る。被災直前の同社の売上高は1億円程度にすぎない。これに対して、後に国が試算した復旧費用の総額は65~70億円。とても負担できる金額ではなかった。

廃線も考えたというが、南鉄は地域の公共交通機関として通学や通院の乗客に不可欠な存在であり、今後の移住促進にも重要なツールである。そして何より、地域にとって観光は農業と並ぶ産業の2本柱である。雄大な阿蘇の山々を眺めながらゆっくりと走るトロッコ列車は阿蘇観光の象徴ともいえ、鉄道の廃止がもたらす観光への悪影響は避けたい。「鉄道での復旧しかない」。草村社長は即座に鉄道復旧に向け関係各所と協議を重ねた。

南阿蘇鉄道全線再開日の様子
南阿蘇鉄道の全線運転再開日、駅では地元住民らが列車を出迎えた(記者撮影)

復旧は三陸鉄道を参考に

とくに参考にしたのが、東日本大震災による被災から復旧を果たした三陸鉄道(三鉄)の事例だったという。

震災前から経営が苦境に陥っていた三鉄は、2009年度から5年間の予定で国の鉄道事業再構築実施計画の適用を受けており、三鉄は鉄道用地を沿線自治体に譲渡し、自治体は鉄道用地を三鉄に無償で貸し付けるとともに三鉄の車両や鉄道設備の修繕・維持管理費用を補助するという「コスト面での上下分離」を行っていた。国も設備投資費用の一部を補助した。震災後はこの計画を5年間延長するとともに、復旧した鉄道施設も三鉄から自治体に移管し、自治体が三鉄に無償で貸し付けることにした。自治体や国による費用補助も継続した。

2019年にはJR山田線・宮古―釜石間がJR東日本から三鉄に移管されたが、鉄道インフラを自治体が保有する上下分離スキームがほぼ踏襲された。期間は10年間だ。

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