JR東日本の技術「東海の駅」で実用化、その意味は? 系列ベンチャー企業が開発の無人決済システム

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一方で、店側のメリットとしては、レジ担当者が不要になる分だけ人件費の削減につながる。加えて、これまでコンビニ店舗として活用しにくかった場所にも出店可能になるという。

阿久津社長は、「無人決済システムが効果的な店舗がある」と話す。売り場スペースが小さくてレジ担当者の人件費を賄うだけの売り上げが出せなくても、無人決済システムを活用すれば、レジ要員は不要で商品を補充するスタッフだけいればよいというのだ。焼津駅の店舗は面積約28平方メートル(約8.4坪)。標準的なコンビニの店舗面積は50~60坪とされており、それと比べるとずっと狭い。標準的なコンビニでは2~3人の店員が常駐するが、焼津駅の店舗では商品補充スタッフの人件費だけで済む。

タッチ・トゥー・ゴー 阿久津智紀社長
TOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー)の阿久津智紀社長(記者撮影)

では、JR東日本が開発に携わった技術がJR東海の駅で実用化されたことに対して、当事者の間で感慨のようなものはあるのだろうか。この点に対して、阿久津社長の答えは「ファミリーマートさんが適した場所を全国で探していて、それがたまたま焼津駅だったというだけの話」。駅構内にぴったりのスペースがあり、焼津市が静岡市のベッドタウンということで通勤・通学者のコンビニ需要も期待できるという理由だった。

「JR会社間の垣根」は関係なし

株式上場という大きな目標を据えるTTGにとって、事業展開の場がJR東日本かそうでないかという点はまったく気にならないようだ。一方のJR東海の静岡エリアで商業施設を担当するジェイアール東海静岡開発の担当者もJR会社間の垣根といった話題には関心がない様子だった。

JR東海も非鉄道事業の育成に動き出している。その一例がカーシェア事業。ENEOS(エネオス)と組んで、愛知県豊橋市で法人事業者向け電気自動車(EV)カーシェアサービスの実証事業を7月1日から始めた。豊橋駅前の駐車場にEVを3台設置。事業用途で使う営業車両として、企業に提供する。企業のコスト削減とEV利用による二酸化炭素(CO2)削減を実現するビジネスモデルの検証が狙いだが、「企業の利用が少ない土日に、観光で訪れる個人客へのサービス提供も検討している」とJR東海の担当者が話す。新幹線駅にカーシェアを導入することによって2次交通の充実につなげたいという。

JR東海 EVシェアサービス 法人向け
JR東海が実証事業を開始した電気自動車カーシェアサービス(記者撮影)

このことから新幹線による観光の魅力向上につなげたいという戦略が見えてくるが、もし有望なビジネスなら新幹線駅前の駐車場にこだわらず、全国各地のニーズがありそうな場所にどんどん進出すべきだ。両社の非鉄道事業の取り組みは10年前とは様相が変わった。これから10年後にどのような姿になっているか楽しみだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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