原発事故拡大が阻む「おくりびと」の派遣
岩手県陸前高田市にある矢作小学校。東日本大震災を境に、被災者の遺体が次々と運ばれてくる安置所に様変わりした。ブルーシートがくまなく敷かれた広い体育館には、震災直後から500体以上の白い柩と納体袋が並び、今でも1日十数体が運び込まれてくる日々が続いている。
ライフラインが断たれ、体育館内は昼でも薄暗い。灯油はあるが、遺体の腐敗を抑えるため、ストーブはつけられず、体育館の中は氷点下まで下がる日もある。夕方4時には真っ暗となり、遺体の顔の判別すらつかない状況だ。
そんな中、朝から夕方まで黙々と、顔も体も泥まみれの遺体を丁寧にお浄めしていったのが、日本遺体衛生保全協会(IFSA)だ。「(現場での作業が)体力的にきついとは思わなかった。ただ、これまで葬儀の現場で生死を見てきた私ですら、精神的にはつらかった」と、加藤裕二・事務局長は真情を吐露する。
IFSAは遺体を消毒、保存処理し、感染症などを防ぐエンバーミング処理のスペシャリスト集団だ。だが、日本でエンバーミング処理技術を有するのはわずか100人ほど。数少ない人員をやり繰りして被災地に送った。
棺1万棹以上を搬送
また、葬儀社が所属する全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)も、会員各社から無償提供された棺1万1500棹をはじめ、納体袋2000袋やドライアイス11トン超などを岩手、宮城、福島各県に搬送した。葬儀社は9割が従業員10人以下と小規模な会社が多いが、「とにかく自分たちにできることをするだけ」(東京の葬儀社)と力を込める。
ただ、こうした限られた支援すら阻むのが、国際評価尺度で「レベル7」に引き上げられた東京電力福島第一原子力発電所の事故だ。