インド脱線事故、多数の死者が出た本当の理由 そもそも定員を大きく超える乗客の数が問題だ

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近年、電車特急も運転を開始したが、ほとんどの長距離列車は、機関車が客車20両以上を牽引する。10両前後の短編成の長距離列車は「ダブルデッカー・エクスプレス」と呼ぶ2階建て列車くらいである。20両の内訳は、全車エアコン付き寝台の「ラージダニー・エクスプレス」(首都デリーと主要都市を結ぶ)と全車エアコン付きの昼行座席車「シャダブディ・エクスプレス」を除くと、10両くらいのエアコン付き寝台車と、10両くらいのエアコンなしの車両で組成されている列車が多数となる。これに食事を作るキッチン車(食堂車ではない)、荷物車、電源車などを含めると、23両編成程になる。

これを、今回の事故を起こした列車もそうであるが、ドイツ技術による現地生産のWAP-7という機関車が牽引する(W=広軌、A=交流電気機関車、P=旅客用)。最高運転速度は時速130kmで、筆者の感覚でも、ほぼそのくらいの速度で運転していて、在来線であるがかなり速い。

幹線はほぼ複線電化され、大都市圏では複々線で近郊列車は別の線路を走る。線路もPC枕木のしっかりしたものである。

人口が多く貧富の差が大きい

長距離列車はおおむね20両以上の長編成であるが、それでもどの列車も満席である。寝台車や1等車は座席指定であるが、2等自由席は客席までたどり着けない乗客がデッキにあふれている。なかにはドアにかろうじてぶら下がっている客もおり、極めて危険な状況である。

しかし、増発できないほどに列車密度は過密になっている。インドへ行くと「人口が多いというのはこういうことか」と思い知らされてしまうが、とにかく人が多いのである。空いている列車など皆無である。

加えて、インドは人口が多いだけでなく、貧富の差が激しいことも忘れてはならない。同じ区間を走る列車でも、全車エアコン付きの優等列車はかなり優雅な旅ができる。最上級のクラスは4人個室の寝台車で、本格的なテーブルで瀬戸物の皿を使って食事が出され、召し使いのようなサービス係が、一人ひとりのお皿に食事をとり分けてくれる。これは一部の豪華な観光列車の話ではない。毎日運行の定期列車の話だ。つまり、長距離列車はクラスによって天と地ほどの差がある。かたや個室寝台で優雅な食事、2等自由席はドアに人が群がっているのだ。

運賃は1000kmほどの距離なら最上級クラスは日本円で1万円以上だが、2等自由席だと1000円以下である。ちなみに空路の運賃は、近年はLCC(格安航空)が発達しているとはいえ1万円くらいはする。貧しい人にとって1万円はおいそれと出せる金額ではない。

貧富の差があるといっても多数派を占めるのは貧しい人たちである。個室寝台では1車両に40人以下、2等自由席は1車両に200人以上が詰め込まれているような状況だ。

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