福島原発の危険評価をめぐる、米国政府と米原子力委員会(NRC)の温度差

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そういう悲観的な評価は、議会内で原発に反対する急先鋒のエドワード・マーキー下院議員らの間で高まっている。NRCのヤツコ氏はかつてマーキー議員の側近だったことがある。

ヤツコ氏はあからさまな原発反対論者ではないが、NRCは米国原発の安全性確保に責任があり、彼はその機関の政治的信頼性を守ることに絶えず心を砕いていなければならない。その結果、米原発業界とぶつかることがしばしばある。

ホワイトハウスとNRCの思惑

ヤツコ氏が在日米国人に対して50マイル圏外避難を勧告して以来、NRCは原発推進派からの猛烈な批判にさらされている。それには、NRCに意見を具陳するNGOの専門家で組織される原発安全保護諮問委員会(Advisory Committee on Reactor Safeguards)も含まれる。その委員会メンバーはNRCに対して、半径50マイルの根拠を示すよう再三にわたって問い合わせているが、NRCは応じていない。NRCは原発の安全性について疑問視する関係者からの信頼性を守ることに懸命なのだ。

ホワイトハウスはNRCに対して反撃に出た。福島原発が完全に制御されるまでにはまだ時間を要するが、危険レベルは低下している、と何人かの報道陣に明らかにしている。福島2号炉の燃料が厚い鋼鉄の圧力容器を突き破ってメルトダウンしているという証拠はない、とホワイトハウスは主張している。

NRCは、国内の選挙民の信頼を醸成するために働いている。選挙民の中には原発業界を抑圧するような厳しい安全規制を求める人たちも多い。一方、ホワイトハウスは福島原発の状況に関して、日本政府が発表するデータや評価に対してその正確さや正直さに信頼をおいていない、という疑念やうわさは振り払いたいと考えており、両者には深い溝がある。
(ピーター・エ二ス特約記者、ニューヨーク在住、翻訳:伊豆村房一 =東洋経済オンライン)
写真提供:東京電力

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