福島原発の危険評価をめぐる、米国政府と米原子力委員会(NRC)の温度差
にもかかわらず、NRCは在日米国大使館に対し、50マイル圏内から米国人を避難すべいという勧告を出し、「20~30キロメートル圏内」という日本政府の避難勧告と鋭く対立した。NRCの勧告は、米国国内での原発事故に際しての避難基準に基づいたものである。それは放射線量で最大1レム(=10ミリシーベルト)まで汚染された危険地域からは遠ざからなければならないというものだ。それに基づき、4号炉の核燃料貯蔵プールの状況から推測して、50マイル圏外への避難が適切、とNRCは判断した。
NRCの内部文書が洩れる
これに驚いたのは、ホワイトハウスと国務省だ。日本政府は正確な情報や安全勧告をしていないとして、民主党菅政権の面目を失わせ、日本国民を混乱させることになりかねないからだ。しかし、ホワイトハウスはNRCと公然と対決する道は選ばなかった。代わりに、オバマ大統領はNRCの判断が日米友好関係に齟齬をきたすことがないよう、在ワシントンの日本大使館に異例の弔意訪問をすることにした。
NRCの避難勧告が公にされたのとほぼ同じ時期に、米国から放射能レベル測定の高性能の専用装置が日本に到着した。これまでのところ、その装置を使った調査では、日本政府が設定した避難範囲を超える危険レベルの放射線量は検出されていない。4月11日、菅政権は避難範囲を広げ、いくつかの地点で高い危険レベルが測定されたと発表したが、NRCによる50マイル圏外避難を裏付けるようなことにはなっていない。
その後、NRCの内部文書が、原発に反対している「UCS(the Union of Concerned Scientists=憂慮する科学者同盟)」というシンクタンクにリークされたことから、NRCは再び物議をかもしている。その文書の要約が『ニューヨーク・タイムズ』に載っているが、それによると2号炉の炉心の燃料棒の一部が溶け出し、コンクリートと鋼鉄の床に落下しているという。