アベノミクスで起きている「ある重要な変化」 「インフレ率2%達成」論議で見逃される本質

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一方で、同調査によれば、中小企業の利益配分(おカネの使い方)の優先度をみると、いまだに内部留保を最優先と考える企業がかなり多い。大企業ほどは財務状況に余裕がないので、中小企業の中には設備投資に躊躇している企業が多いとみられる。設備投資の積極化が、企業部門全体に広がるほど状況が大きく変わったとまでは言い難い。

銀行や中小企業の「変化の兆候」を見逃すな

それでも、中小企業の設備投資行動に影響を及ぼす、銀行の貸出行動が積極化する兆しが足元でみられる。日本銀行による銀行貸出動向アンケート調査によれば、中小企業向けの貸出態度を表す判断指数が、この4月に再び改善に転じた。

同指数は、2014年10月からやや悪化していたが、2015年4月に中小企業向けを含めて積極化方向に転じたのである。

銀行の貸出行動が中小企業向けを含めて改善していることは、量的金融緩和政策によって金利安定や株高が続く中で、銀行資産構成の変化を通じて貸出が増える、いわゆるポートフォリオリバランス効果によって景気刺激効果が強まっていることを示唆している。

また、中小企業の資金需要動向の要因をみると、「設備投資」を使い道とする資金需要が増えていることも確認されている。限界的な動きかもしれないが、大企業よりも慎重な中小企業で、設備投資を使い道とした資金需要が増え始めているとすれば、今後の景気回復の勢いとその持続性を判断するうえで重要だろう。

2015年3月調査の日銀短観においては、企業景況感の改善が足踏みとなっている。また1-3月の実質GDP成長率の伸びは小幅プラス成長程度に止まったとみられ、最近の日本の経済はあまり冴えない。

だが、企業のおカネの使い方と設備投資などの変化は、アベノミクスで始まった金融緩和強化を起点として、脱デフレという正常化のプロセスが依然続いていることを示している。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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