バンコクの鉄道「日本式システム輸出」苦闘の歴史 「上から目線」の技術押し売りはもう通用しない
バンコクの都市鉄道に日本の鉄道システムがようやく導入されたのは、2016年に開業したMRTパープルラインだ。建設スキームはブルーライン第1期区間と同様で、790億8100万円を上限とする円借款の対象(バンコク大量輸送網整備事業(パープルライン))は土木工事やコンサルティングサービスなどに限られ、車両、信号・通信システム等の調達はBEMが実施した。
シーメンスが受注する可能性もあったが、鉄道システム一式を丸紅と東芝のJVが受注し、車両は総合車両製作所(J-TREC)が納めた。さらにJR東日本と共同で、10年間のメンテナンス契約も受注した。これまでシーメンスに丸ごと受注されていた部分を挽回した格好だ。
とはいえ、BTSなどの先例から、タイの鉄道の技術標準は欧州規格のENとなっており、仕様・寸法はそれらを基に規定されてしまっている。よって、ENへの対応のための膨大な書類準備や車体強度、難燃性の証明などが車両メーカーにとって大きな負担となったほか、複数箇所の設計やり直しが生じた。生じたコスト増は全てメーカーヘ跳ね返った。
しかし、そこまでして受注争いに加わったのは、この時まさに「鉄道インフラ輸出」が国をあげて叫ばれていた時代であり、企業としても動かざるを得なかったことが大きいだろう。
タイ側も「ドイツ一辺倒」には懸念
一方、タイ側にも、都市鉄道整備のパートナーを1つの国に絞ることへの懸念があった。タイに限らず、東南アジアの多くの国々はバランス外交を重視している。価格のみが焦点となる国際競争入札制ではないことから、BEMや政府がある程度の采配を振ることは可能であり、既存のブルーラインと繋がらない新規路線は別の国にやらせたいというタイ側の意向も響いたのではないかと分析する関係者もいる。
パープルラインは約23.6kmの延長計画があり、タイ政府の予算でまもなく本体工事が着工する。土木工事は今回もタイのゼネコンが受注すると思われるが、第1期区間の鉄道システム一式を変更することは非合理的で、東芝のシステムとJ-TREC製車両が再び導入されることが有力視される。第1期入札時には、延伸時に企業が事前に合意した適正価格で優先的に納入できるフェアプライスアグリーメントを採用しており、日本側にとっては設計が流用できるためコストが下がり、施主側にも受注企業側にもメリットになる仕組みである。第1期にのしかかった負担も、パープルラインが伸びれば伸びるだけ解消できることになる。
ちなみに、パープルラインに続くピンクライン(約34.5km)と、冒頭で述べたイエローライン(約30.4km)はモノレールとして建設されている。車両は先述の通り中国中車南京製で、その他システム一式とメンテナンス契約も同社が受注している。さらにオレンジラインもタイ政府予算で本体着工しており、鉄道システムの部分を果たしてどこの国の企業が受注するのか注目される。
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