トヨタはVWグループに抜かれてしまったのか 明け渡した販売トップ、カギ握る中国市場

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週刊東洋経済2015年5月2・9日合併号(4月27日発売)の特集は『トヨタ!進撃再開』です。今やトヨタの戦略を知らずに明日のビジネスは語れません。日本一の巨大企業を全50ページで総まくりしました。上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

カローラHV/レビンHVは、トヨタが初めて日本国外で開発したHVになる。”中国産”を売りに、この先の排ガス規制が強化される中国で得意のHVで巻き返しを図る。 4月15日には、トヨタは中国・広州での10万台規模の新工場(第3ライン)を17年内に、メキシコで20万台の新工場を19年に立ち上げると発表した。

1990年代後半から2007年にかけての「身の丈を超えた無理な拡大」(豊田章男社長)が、リーマンショックによる赤字転落の原因となったという反省から、近年のトヨタは規模拡大より、体質強化を優先してきている。

2013年4月には3年間の新工場建設の凍結を宣言。2014年5月には「意志ある踊り場」という言葉で、そのことを強調してきた。

が、自動車生産の革新や工場の生産性改革に一定の成果が現れ始めたことから、攻めの施策を増やしていく考えだ。

質から量を目指すトヨタと規模を追うVW

本社工場の様子(写真:northsan / PIXTA)

ただ、トヨタがアクセルを全開にしてVWと競うかというと、それは違う。少なくとも台数で、何が何でもトップを守ろうというような考えは、今のトヨタにはない。

グローバル1000万台の時代に中国とメキシコの新工場でも合計30万台。中国では天津で増設計画もあるが、2017年末には2014年に9万台生産したオーストラリア工場を閉鎖するため、グローバルでの生産能力は大きくは増えない。新工場の狙いも単純な生産能力の拡大ではなく、世界各国の工場を競わせることで、全体の競争力を高める考えだ。

もっとも成長が望める中国でまだまだ事業基盤が弱い上、不安定な日中関係を考えると、積極施策をとりにくいという事情もある。 結果、短中期ではあくまでも規模を追わずに徹底的に競争力を磨き上げる。そうしていけば最終的に台数もついてくる——。これがトヨタのアプローチだ。

一方、VWは目先の収益性よりも規模拡大を優先している。 会社の最終的な利益を表す純利益は、トヨタの2兆0239億円(2014年3月期)に対し、VWは1兆5226億円(2014年暦年・期中レートで換算)を上回っている。

企業の価値を表す指標である時価総額(発行済株数を株価でかけたもの)では約28兆円のトヨタに対してVWは約14兆円。利益の差以上にトヨタに差をつけられている。 こうした現状にVWに対しては、収益改善を求める圧力も強い。

最近では、VW創業家出身で長くVWの最高実力者として君臨してきたフェルナンド・ピエヒ監査役会会長が、マルティン・ヴィンターコーン社長の手腕に不満を表明。4月25日にはピエヒ会長の辞任が発表されるなど、経営混乱も起きている。

とはいえ、VWがトヨタのように内部固めを行うために、拡大路線の足を止めるとは考えにくい。19年までに中国だけで生産能力を200万台引き上げる計画などを粛々と実行していくはずだ。

内部固めをしながら一歩一歩確実な成長を志向するトヨタ。多少のトラブルがあってもアクセルを全開に拡大路線を邁進するVW。正反対のアプローチでナンバーワンを争う両者。どちらが「真の勝者」となるかの雌雄が決するのは、もう少し先になる。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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