「マンガは子供のもの」と思う人が知らない"真実" 大人の鑑賞に耐えうるリアルな作品が増加の訳
── ところで山内さんは、マンガやドラマ、アニメ、映画などをコンテンツとして並べた時に、マンガにしかない魅力はどういうところだとお考えですか?
山内:マンガの良いところは、読むのも見返すのも自分のペースでできるところです。ポイントで読み返すのも動画よりも手軽ですね。特にコロナ禍においては、家から出られない中で、他人の人生をまるっと自分のペースで読み進められる魅力を感じた方も多いのではないでしょうか。
その際、キャラクターの言葉を自分の頭の中で自分の声で読むことは、ある意味“演じている”という行為にもなり得るので、より主人公になりきって、その人の人生を自分事として感じることができる。映像とマンガでは、共感するキャラクターに対する憑依具合が違うと思うんです。
マンガで時代を読む力も養える!?
山内:そして、絵に力のある作家さんのマンガは、一つひとつのコマが強く、象徴的なシーンの絵やセリフには、物語を超えて誰かの人生を牽引する力があります。例えば、2010年代前半には『ONE PIECE』(尾田栄一郎、集英社)がビジネス書として評価されました。それは、主人公ルフィの「海賊王におれはなる」というシーンの強さと、彼が旧来の組織を動かしたり破壊・再構築したりしながら、若手の新星としてのし上がっていく姿が、当時のベンチャー企業の社長たちの心理とマッチしたからでしょう。
また、社長だけでなく、その部下たちも皆読んでいて、社長が部下に対して「あのシーンのこういう感じでいきたい」と言えばすぐに意図が伝わり、マンガが組織内のチームビルディングの教科書として使われたりしたのです。
── マンガを読むのは個人的な体験ですが、ヒット作は読んでいる人が多いだけに、作品を介したコミュニケーションも可能になるんですね。マンガの制作過程では、作家さんはそこまでの広がり方を予期しているものですか?
山内:恐らく、考えていないでしょう (笑)。ただ、ヒットするということは、時代の共感を得ているということになります。なので結果的に、ヒット作を見ると、その時代の背景や空気感が色濃く出ていることが多い。作家の問題意識や表現したいテーマがたまたま時代とマッチして人気が出るという意味では、“ヒットする作品はその時代の社会との結びつきが強い”と言えるでしょう。
一方で、長く読まれる作品には普遍的なテーマも含まれていたり、キャラクターの描写も厚く、その時々で自分が共感できるキャラクターに必ず出会えたりする、という魅力もあります。たとえば、バスケ漫画の巨塔『スラムダンク』(井上雄彦、集英社)をリアルタイムで読んだ時には主人公の桜木花道に共感していたけれど、大人になって読み返すと監督の安西先生の目線になっている、みたいな変化です。名作と言われる作品が色褪せない理由は、そのあたりにもあるのではないでしょうか。