徒労感しかない「筋の悪い成長戦略」からの脱却法 打ち手に迷う経営陣のための成長の標準モデル

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個社の戦略としては、標準モデルの入口に来る事業立地の選択が何にも増して重要となる。

では立地はどう選択すべきなのか。基準を列挙しておこう。

①実力伯仲の競合がまだ足場を築いていないこと
②後発で挑んでくる他社を阻む防壁が立つと期待できること
③衝突したら勝ち目のない強者が興味を持たない程度に狭いこと

この3点はシリーズ第1巻『高収益事業の創り方』と共通する。企業成長を扱った本書に固有の条件として次の2点を加えておきたい。

④標準産業分類の小分類(三桁)次元で勢いのあるバリューチェーンに絡んでいること
⑤標準産業分類の細分類(四桁)次元で勢いのあるカテゴリーと重ならないこと

選んだ立地で競争優位を確立できたら、あとは深耕から進攻へと進んでいけばよい。

選んだ事業立地が事後的に上記5条件を満たさないと判明したら、それまでに投下した経営資源をサンクと諦めて、速やかに事業立地を選択し直したい。次の事業立地に矛先を向け直すと表現してもよい。

経営陣には立地固執のバイアスがかかりがち

もうひと頑張りして壁の突破を目指すのか、それとも早々に退却して次の事業立地に賭けるのか、この判断が難しいことは言うまでもない。

最終的には状況を精査して経営陣が下すべき判断であるが、経営陣には前者寄りのバイアスがかかっていることだけは指摘しておきたい。

そもそも自ら選んだ事業立地を放棄することは経営陣が失敗を認めるに等しいし、突破力を買われて登用された人たちが経営陣を構成する傾向も機敏な転進を妨げる要因になりやすい。

判断に際しては、意識的に逆のバイアスをかける工夫を凝らしたいところである。

転進が遅れると長期的なコストは桁違いに膨らみやすい。競争優位が盤石ではないまま深耕や進攻に突入すると、成長は持続できたとしても、利益が伴わない。

低収益を嘆くだけならまだしも、そういう企業は斜陽を迎えると赤字の山を築くことになる。そうなると転進に向けて投資することもままならず、あっという間に存亡の危機に直面する。

三品 和広 神戸大学大学院教授

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みしな かずひろ / Kazuhiro Mishina

1959年生まれ、愛知県出身。一橋大学商学部卒業。同大学大学院商学研究科修士課程修了。米ハーバード大学文理大学院博士課程修了。同大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学助教授などを経て現職。著書多数。経営幹部候補生のために、日本企業のケース464事例を収録した『経営戦略の実戦』シリーズ(全3巻)が2022年5月に完成した。近著に『実戦のための経営戦略論』

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