G7で大活躍、JR西「観光船シースピカ」誕生の秘密 地元海運会社と共同開発し瀬戸内海クルーズ
観光はその有力候補で、DC期間中に定期航路の予備船を使って島めぐりクルーズを商品化したことはある。手応えはあったが、長続きしない。DC期間中は船舶をやりくりしてクルーズに投入していたが、恒常化はできなかった。同社は余分な船舶を何隻も抱えるほど経営に余裕はなかったのだ。「専用の船を使って、観光を切り口に需要を増やしたいと考えていました」。瀬戸内海汽船の川渕紀和航路事業部長が当時を振り返る。
観光という点で、JR西日本と瀬戸内海汽船の思惑が一致した。では、新しい船を造ってもペイできるだけの事業となりうるか。そこで、実験的な試みとして、定期航路の予備船を使って2018〜2019年に瀬戸内海の島めぐりクルーズを商品化した。JR西日本がプロモーションと集客を行い、瀬戸内海汽船が運航という役割分担だった。
「専用船を建造してもやっていけそうだ」。手応えをつかんだ両社は具体化に向け動き出した。運航ルートの設定と専用船の建造である。
運航ルートは約4時間半
運航ルートは2018〜2019年の島めぐりクルーズをブラッシュアップした。乗客はクルーズの前か後にもほかの場所で観光することを考えると、発着地は新幹線駅に近いほうがいい。クルーズの競争力を持たせるためには、複数の島に立ち寄ったほうがいい。一方で、首都圏からの観光客は船旅に丸1日費やすことはないだろうという想定から所要時間は4〜5時間程度。こうしてできあがったのが、瀬戸内しまたびラインと名付けられた、広島、呉、瀬戸田(尾道市)、三原の各港を結ぶルートだ。
所要時間は約4時間半。途中、呉港に停泊する海上自衛隊の潜水艦や護衛艦、ドックで建造中の巨大タンカーといったさまざまな船舶を海上から見学したり、大久野島(竹原市)で下船して島内に多数生息するうさぎと触れ合ったり、毒ガス資料館を見学することができるなど観光要素が満載だ。1日1往復。往路と復路で若干ルートを変えた。「この航路しかない」(川渕部長)というルートが固まった。
ルートの選定と合わせ、船の仕様の検討も進められた。4〜5時間の船旅で複数の島に立ち寄ってゆっくりと観光してもらう時間を捻出するためには、高速性能を備える必要がある。同時に、揺れに強い双胴船構造とした。また、定員を増やすために船を大きくすると、立ち寄る島の桟橋に停泊できない。逆に定員が少なすぎると、旅行会社のチャーターなどに使いにくい。こうした理由から、全長27.5mで定員は約90人というサイズに落ち着いた。
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